NOVEL

きっとこの先は。vol.5~月が明けた~

「あいつ、なんなんですか!めちゃくちゃ雰囲気悪い!」

新人の美雪さんが私よりも癇癪を起してくれた。そのおかげで、少し落ち着くことが出来そうだ。

「あの人が鈴木さん。組合設立の立役者で、私の昔馴染み」

「私たちの敵ですね!負けてらんない!」

 

美雪さんの天真爛漫さには時々救われる。現場の経験は少ないが、忙しくてもこの明るさをお店いっぱいに広げてくれる。そのおかげで救われている人は、私だけではないはずだ。

 

それから更にサービスや宣伝に力を入れていくようになった。様々な施策を考えて打っていく。翌月までの目標をたて、従業員も同じ方向を向いてくれている。

 

小柳君が厨房から顔を出す。

「女将さん、新しく料理出来たんで見てもらってもよいですか?」

「わかりました。今行くわね」

 

岐阜の郷土料理けいちゃんをアレンジしたものだった。

鶏肉を田舎みそや醤油、みりん、砂糖で作った甘辛いタレに漬け、お野菜と混ぜながら焼いていく。タレは多めに入れるのでグツグツと煮える音や、ジュワと立つお味噌の香りをかぐだけで、口の中に唾液が出てくる。

B級グルメとして評されることが多いこの料理を料亭として出しているところは少ない。しかし、お店に来るお客様は、“けいちゃん”がよく食べられている岐阜県中農~飛騨出身の方が多く、ターゲットとしては的を射ていた。

 

皆が皆、自分のやるべきことを自分で認識して取り組んでいる。この状況に少しずつ希望を持ち始めていた。

お客様からの評判も上々である。組合は複数の店舗からなる共同体のため売上は遠く及ばないだろうが、それでも私たちは、私たちの屋号を掲げてお店を続けていくことが出来る。その自信は強くなっていた。

 

月が明けた。

 

 

Next719日更新

切り盛りする料亭の売り上げが落ち、私は策を練るもいろいろな考えが頭を巡り煮詰まってしまう。その時、板前の小柳にあることを告げられる。