残された百合子とひとみは互いに言葉を交わすことも視線を合わせることもないまま沈黙していた。
もともと「同じ課だから」と言う理由だけで礼子に言われて同席しているに過ぎない。
ちょっとしたことで崩れる脆い関係。
ひとみは考えるのも面倒になって、小さなため息を吐く。
「お先に」
ひとみは百合子にそう告げると席を立った。
一人その場に残された百合子はその後ろ姿を見つめながら唇をきつく噛み締める。
(・・そのしたり顔が気にくわないのよ・・)
自分より2年先輩というだけで何かにつけ、上司から評価されているひとみが気に入らなかった。
城島のこと誘ったのも、城島がひとみと付き合ったからに他ならない。
自分の方が優っているのだということを見せつけたくて手に入れたはずなのに、ふたりは一向に別れる気配がない。
「もうっっ!」
百合子は手にしていたグラスを乱暴にテーブルに置く。
中に入っていた氷が勢いに押されて飛び出した。
それはまるで取り繕われていた“仮面”が粉々に砕け散った残骸の様に見える。
何かが崩れ始めている・・そんな危うさを振り払う様に百合子は乱暴にトレイを持ち上げ、席を立つ。
その姿を後から来た三村佐智子が意味深な視線で見つめていたことなど、知るはずもなかった。
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