NOVEL

彼女がいても関係ない vol.10 ~本当の姿~

そのことには触れずに佐智子がバカラのシャンパンクーラーからボトルを手に取る。“コント・ド・シャンパーニュロゼ”。グラスに注ぐと爽やかな発泡の弾ける音が響き渡った。

 

「ん〜美味しい」

佐智子は一口、含むとテーブルに置かれたチョコレートを指先で持ち上げる。

蕩けるようなカカオの香りが口いっぱいに広がった。

 

「幸せ・・」

佐智子がうっとりとした表情で呟く。

 

「どういうつもり!?さっさと」

感情的に叫ぶ礼子を右手で制して佐智子が微笑んだ。

 

「On n'a qu'une vie.」

腰を下ろしながら佐智子が流暢なフランス語を口にする。

「人生は一度きり。楽しまないと損よ?」

 

「それが他人の男ばかり追いかける理由な訳!?」

礼子がヒステリックに叫ぶ。

 

「ん〜ちょっと違うわ。別に人のものが欲しいわけじゃないのよ?」

シャンパンを口に含んでテーブルの上のチョコレートに視線を移す。

 

「ほら、どれも美味しそうでしょう?摘んでみないとわからないじゃない?」

「・・何を言っているの?」

佐智子の真意が分からず、礼子が呟くように言う。

「別に奪おうとかじゃないの。ただ味わってみたいだけ」

赤いショコラを摘むと佐智子が微笑んだ。

「あと既婚者には手出ししないことね。だって、面倒だもの」

 

「・・貞操観念ってものがないわけ?」

礼子が言う。

 

「ん〜純潔かどうかを問うのならともかく、何度目かって意味ないじゃない?あ、もしかして礼子さんバージン?」

「・・っ」

礼子の顔が怒りで赤く染まる。

「あら、図星だった?それじゃあ余計分からないわよね、私の言っていること」

「バージンでなくても分からないわよ」

珠莉が言葉を挟む。

 

「大丈夫!純潔が結婚の条件って男性もいるから」

からかう風でもなく、佐智子が礼子に向かって言葉を続ける。

「要は考えようなのよ。男性に依存する生き方もOK。私がそうではないってだけ。チョコレートを楽しむように私はセックスを楽しむの」

「食べ過ぎはどうかと思うわよ?」

次のショコラに手を伸ばした佐智子を見て、珠莉が言う。