NOVEL

彼女がいても関係ない vol.10 ~本当の姿~

「ん〜あと1つ!」

佐智子は珠莉にウィンクしながらアーモンドの載った一粒を摘み上げた。

「だからね、礼子さん」

声のトーンが下がる。真正面から礼子を見据えて佐智子が続ける。

「大事なのは自分自身なの。人を蹴落としたり、揶揄している暇があるならやるべきことをしなきゃ」

 

佐智子が示唆しているのは例の名簿の件だろう。

「・・あれは!」

「責めているわけじゃないわよ?結局自分の評価が下がっただけでしょう?」

確かに、あれ以降社内では礼子の信用は無いに等しい。

「今日だって、そう。もし私を刺していたら今ごろ犯罪者よ?」

そこまで言われて礼子はようやく冷静に物事を受け止める。

「ね?ま、私たちは今日で消えるけど」

「・・?」

「私たちの契約は今日までだから」

珠莉が立ち上がりながら、そう告げる。

 

「契約って」

礼子は困惑した声で尋ねる。

「創業記念パーティーまでの契約なの。もともと1箇所に長居するつもりはないし?」

 

佐智子がシャンパンを飲み干して立ち上がる。

「そうそう、派遣だから仕事が出来ないって決めつけは良くないわよ?」

 

「こう見えて三村さんは語学・IT・ビジネスすべて特Aランクだから」

珠莉が説明するように言う。

「護身術もね」

佐智子が補足する。

 

「そうね。ただ素行が問題。だからお目付役が必要なのよ」

「あら、それがお仕事でしょう?」

佐智子がからかうように言う。

 

「じゃ、礼子さん。人生を楽しんで」

佐智子はそう言い残すと珠莉と共に部屋から出て行った。

 

一人、残された部屋で礼子は崩れるように床にしゃがみこむ。

 

エレベーターに向かいながら珠莉が尋ねる。

「ところで、桐生氏とは何もなかったんでしょうね?」

目線だけ珠莉の方にやると佐智子が答えた。

「さあ?どうだったかしら?」

「・・佐智子?」

咎めるような珠莉の問いには答えず、佐智子は最高級のシャンパントリュフを口にした時と同じ笑顔で微笑んだ。

 

 

END

 

 

前回の話▶彼女がいても関係ない vol.9 ~佐智子への憎しみ~

はじめから読む▶彼女がいても関係ない vol.1 ~新しい風が吹く前に~