NOVEL

彼女がいても関係ない vol.10 ~本当の姿~

「・・またやったんでしょ」

珠莉が冷静な口調で続けた。

「あら、礼子さんにはしてないですよ?」

「どうだか」

呆れた様に呟くと桐生の方を向き直す。

「さ、急いでください。お時間です」

「ああ、・・大丈夫なの?」

桐生は事の顛末が掴めず礼子と佐智子を交互に見つめる。

 

「大丈夫ですから」

珠莉がきっぱりと言い放つ。

「はい、大丈夫ですぅ」

佐智子もにっこりと微笑んだ。

 

「じゃ、任せるよ」

「桐生様、こちらへ」

ホテルのスタッフに促されホールへと向かって行った。

 

その後ろ姿を見送ってから珠莉と佐智子は礼子と連れ立って階を移動する。

行き先はVIP用の控え室になっている17Fの一室だ。警察を呼ぶべきかと尋ねるスタッフを制したのは佐智子だった。

 

「何ともありませんから」

「しかし・・」

心配顔のスタッフに笑顔で佐智子が答える。

「だって、ほら。平気でしょう?」

佐智子がくるりと回ってみせる。花の様なドレスが大きく広がった。

 

「・・畏まりました。それでは何かありましたらすぐにお申し付けください」

そう言って一礼すると部屋を後にする。

 

部屋には御室 珠莉と三村佐智子、そして山村礼子の3人が残された。

 

 

●おひとつどうぞ

普段は披露宴などで使われる空間は企業カラーの白とブルーで装飾が施されている。ゲストの為に用意されたオードブルやシャンパンは殆ど手付かずの状態で残されていた。

 

「・・さっさと警察でも何で呼べば?」

最初に口を開いたのは礼子だった。

「うまく立ち回ったつもりでしょうけれど、いつか痛い目に会うわよ!」

吐き出すようにそう言って礼子は佐智子を睨みつけた。

 

珠莉が呆れたような視線を佐智子に送る。

「だから、いつも言っているでしょう。ほどほどにしなさいって」

「あら、珠莉にとやかく言われる覚えはないわよ?」

やけに親しげな二人の様子に礼子は少し戸惑う。