居酒屋での一件以来、密の束縛はより厳しいものとなった。
環は出勤すると、まっすぐに家に帰ることを余儀なくされた。少しでも時間が遅れたら、どこに行っていたのかと問い詰められ、説教された。逆に早く出勤することも許されなかった。
はじめから読む:男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~
休日は必ず密同伴で行動しなければならなかった。スーパーに食材を買いに行くのも、デパートに日用品を買いに行くのも、一人で出かけることはほぼ許されない。
一人で出かけようとすると、必ず時間制限を設けられる。
ちょっとならいいか、そう思って寄り道すると、それが時間内にもかかわらず密に必ずバレてしまう。それも疑問に思う点だった。
何で分かってしまうのだろう…と段々薄気味悪くなってきた。
まるで、常に監視されているようだ。
環は段々と、夫の行き過ぎた束縛に憔悴(しょうすい)するようになった。
***
(……はあ……)
ふらふらと、外を歩きながら溜め息をつく。
(ろくに出かけることもできないし、それでいて家の中ではきちんと家事をしろの一点張り。厳しいと思えば、急にデレデレと優しくなったり。これじゃおかしくなっちゃうよ)
夫である密のことが分からなくなってしまった。環は何だかとても疲れ切ってしまって、家から離れたくなり、あてもなく近所を歩いた。
(公園にでも行こうかしら。外の空気を吸いたいし、ベンチでぼうっと風に当たるくらい、いいよね)
くるりと方向転換する。近くの公園に足取り重く入ると、不意に鞄の中のスマホが振動を伝えた。
『今どこにいるの?』
見ると、密からだった。
(また?何だか最近、こういうことが多い気がする。そもそも飲み会の居酒屋にいたことだって、何で分かったんだろうと思うし……)
環は不気味さを感じるより、むしろ焦ってしまった。密に怒られるのが怖くて、言い訳をしてしまう。
『大丈夫よ。今日はもう家に帰ってるから』
慌ててスマホに入力して送信する。これで安心かと思いきや、返ってきたのは意外な返信だった。
『公園にいるんじゃないの?』
冷水を浴びせられたようにぞっとした。焦って周囲を思わず見回してしまう。まるで夫がすぐ側で見張っているように感じたのだ。
そして、その時になって環はようやく思い至った。
(……このペンダント……!!)