NOVEL

Silver Streak vol.6~魅惑と罪悪感、元彼との再会は何気ないものだったが…。~

中学時代の友人との集まりに呼ばれ、いつも通り嫌な思いを感じつつも自分自身の価値観を認識する美果。一方で加奈子に話したいことがありスイートルームへ呼んだのだった。

 


前回:Silver Streak vol.5~元彼と友人のように接することができ安心したのも束の間、望まない相手からメッセージが届いて…。~

はじめから読む:Silver Streak vol.1~スイートルームから毎朝出社する女性。ホテルのバーでの思わぬ出来事とは?~

 

夜の11時。

上のレストランで商談を終え、やっとアルコールでまどろむことができるタイミングだ。

ロックグラスに入ったいつものオールド・ファッションド。スライスされたレモンとライムの色合いが美しい。

オレンジを入れるレシピもあるようだが、マスターによると甘味は砂糖のみで仕上げたいから、とオレンジは使わないのだそうだ。

ここに通うようになって何回目かの時にそう教えてくれた。

 

美果は今日ここに来ないのだろうか…。

新一は入り口の方へ無意識に目を遣(や)る。以前このバーで見かけたときは柄にもなく凝視してしまった。

美果はその視線に気づいていたがここの間接照明のおかげか、顔が見えにくかったのか新一とは気づいていないようだった。

そのまま遣り過ごすつもりでいたのだが思わずエレベーターホールで声をかけてしまったのだった。

もう数か月前のことになる。

 

少しずつ仕事が軌道に乗り始め、この高級ホテルでの商談も板についてきたころだった。

 

 

商談後にバーで一息ついてから帰宅するのが習慣になり始めたころだ。

後ろの席で話す会社員の会話が耳に入った。

「おい、知ってるか?ここのバーにたまに謎の美人が来るの」

「美人って、おまえの言う美人だからなぁ。ほんとにそうなのかよ?この間も綺麗な子ばっかり集まるって言ってた飲み会、普通だったじゃないか」

ここは錦ではなくハイクラスホテルの中だ。少し眉をひそめながら新一は聞いていた。

「いや、それが本当に美人でさ。顔が抜群に美人っていうよりはさ、顔も含め佇まいというか、オーラというか、なんか全体で美人ってわかるんだよ」

「へぇ」

相手の男性は話半分に聞いているのがわかる。

「しかもさ、その彼女ここに住んでるみたいで飲み終わってエレベーターホールの方に向かうんだよな。何回か見たことがあって余計印象に残ってるんだ」

「ここに出張で泊ってるんかな?それか愛人と会っているとか?」

「わかんないんだよなー、でもちょっと謎だろ?」

その時は新一も与太話程度に聞いていたのだが、何ヵ月か経ったとき、その正体を知ることになる。

 

この会社員たちもバーの常連らしくたまたま一緒になった時だった。

いつも通り新一はカウンターの後ろのソファ席で飲んでいた。

そしていつも通りなのか、会社員たちも新一の後ろの席で飲んでいる。酔いがまわったころ、一人の女性が入ってきた。

ドアが開いた時に目を遣ってしまうのは自然の動きであるが、一瞬目が離せなくなった。

その佇まいが美しかったからだ。美果とはまだ気づかなかった。

カウンターに座り、マスターと一言二言交わした後は優雅にくつろいでいる。

ここから声は聞こえないが慣れた様子でオーダーをしたようだ。

 

「ほら、あの女性だよ。前に言ってたの」

後ろからその声が聞こえ、新一は興味を持った。確かに後ろ姿からでも美人だとわかる。

姿勢なのか、スタイルなのか全体の雰囲気が良いのだ。これは噂にもなるだろう。

そろそろ帰るか、と新一が会計を済ませ店を出る時に再度噂の彼女を見る。

横顔を見て、やっと美果だと気づいたのだった。

偶然遭遇したのはこの時だけではない。その後数回見かけ、エレベーターホールの方に向かうのも何回か見た。

それもスイートルーム専用のエレベーターのほうに。

特に鞄を持たず身軽にバーへ来ることからも宿泊客だとわかる。

どういうことだ?ここに頻繁に泊っている?