佐伯は作り笑いを浮かべていた。
〝タシロミユキ″が請求先として伝えてきたのは、会社名だった。
ホスト時代に聞いたことがある。
推しの気を引くために、普通ではやらない無茶な事をする女性客が居た。
その客は、店ごとに偽名を名乗り、ブームが去れば二度と来なくなる。
その対象になった後輩が花束を贈られたことがある。
それは、あろうことか桜だった。
どうやって作らせたのかと、一時期店で話題になった。
『陶酔』させたホストの勝ちなのか、そこに『真実』はあったのか…?
本人以外は解らない。
それでも、少なくともそこには、こうして犠牲となった花があることを忘れてはいけない気がしてならなかった。
1週間は咲けた花の蕾を切り取り、短命にさせてしまった。
「まぁ、変なところに行かなくて良かったよ。」
佐伯はそう告げると、店先に金木犀のアレンジメントを飾った。
錦三丁目に季節外れの金木犀の香りが流れていく。
『誘惑』の多いこの町に『真実』があることを願って…。
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