NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.4 ~誘惑の多い町にある真実~

 

約束の日を迎え、佐伯はオープンより早い時間から作業を始めていた。

茎と違い、枝を扱うのも初めてに近いし、一本茂っている金木犀の切り出しは想像以上に苦戦を強いられた。

 切り花と違って、生命力が強い。

 

それを何とか切り出し、特大の籠に差してアレンジを施していく。

金木犀の良さを引き出すには、金木犀以外の花は無臭に近い物でなければならなかったので、他の花にも気を遣う。

 労力と時間も使い、出来上がったのは夕方になっていた。

 

「すみません!」

 店を訪れたのは、リナではなく娘の奈緒だった。

 

「あれ…?」

 〝お母さんは?″と尋ねようとして慌てて口を噤む。

 

「お母さんは楽しみにしてたんだけど、急用で来れないから。」

「そうかぁ」

「うわー!!素敵!!凄いですね!金木犀でこんなの出来るんですね!」

 

奈緒の感激ぶりに、安心する。

 綺麗だと喜ばれることこそが、何よりもの褒美である。

 

「こんな素敵な花束貰えたら、嬉しいだろうな。」

 

そうであって欲しい。

 苦労を掛けたからではなく、思いを寄せて贈られる花には、意味があって欲しいと願う気持ちが強い。

 

しかし、待てど、暮らせど〝タシロミユキ″は姿を現さなかった。

 仕方なく電話を掛けてみる。

 

『あ、もしもし…花屋さん?あ…ごめんなさい。取りに行く必要なくなって…。お金なら振り込みますから。お幾らですか?』

 

傷心を気取る言い口に、虫唾が入った。

 

「トータルで、2万になります」

「振込でいいかしら?請求書を送ってくださる?」

 

機械的なやり取りをして電話を切った時は、手汗が滲んでいた。

 

「大丈夫?」

 奈緒が心配そうに声を掛けてくる。

「ああ。大丈夫だよ。」