フラワーショップ【ラナンキュラス】に店で配っているThanksカードを持った見慣れぬ客がやって来た。
前回:錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.1 ~錦三丁目を舞台に、人々が小さな花を咲かせる~
~コリウス~
花をもがれて葉に色鮮やかな色彩を放つ。それは…『叶わぬ恋』の末路だった。
店先に飾られた鉢植え。
過去に捕らわれたコリウスが割れる時…〝叶わぬ願い…″の車輪が回りだす。
フラワーショップ【ラナンキュラス】は、朝の4時に店を閉めて、その日の昼の12時には店を開ける。
市場になんて向かわずとも、ネットで仕入れは出来る。
オープンして2年が経つ。
切り花を主に扱っているのに、入り口に佇むコリウスの小さな鉢植えはずっとそこにあった。
今日もいつも通りに店のシャッターを開けて、関節を伸ばしていると…
「すみません。【ラナンキュラス】って花屋さんは、此処ですか…?」
「はい!いらっしゃいませ」
大あくびをしていたため、ごまかすように慌てて手首で口許を隠しながら振り返ると、そこには制服を着た地味な少女が立っていた。
手には、店で配っているThanksカードが握られている。
それは、購入してくれた人全員に配っているものだ。
「あ、それ!誰かに貰ったのかな?どうだった??」
この店は別に夜の仕事をする人専門に作ったつもりはなかったが、どうしても佐伯本人がホスト上がりってこともあり、客が夜に偏りがちだった。
なので、こんな小さな可愛い手に、自分の花が渡っているのは単純に嬉しかった。
―あれ…?―
「君、もしかして…リナさんの、娘さん?」
本名は聞いてなかったが、源氏名を口に出してからその微妙な空気に反省する。子供にとって、母親の源氏名なんて聞きたくないかもしれない。
佐伯のそんな心配をよそに、娘は佐伯の顔を見ないように、声を振り絞った。
「お母さんには、もうお金ないですから!」
「…え…?」
「だから、もう、会わないでください!餌を見つけて…隙を見つけて入り込んできて…あんたたちは…まるで、ゴキブリよ!」
感情的に捲し上げられても、佐伯には傷つく柔い心は残っていなかった。
「まぁ、あのう…そうだね。
そうだと思うよ。それより、ちょっと、人目があるから、中で話そうか?」
娘を軽く流して、店内に案内する。店先で騒がれるのは困る。
「いや…離して!!誰かぁ!!」
その時、少女が暴れ…入口に飾ってあったコリウスの鉢植えが落とされた。
瞬時に、佐伯は娘から手を離し、その鉢植えを受け止めようとしたが、あと少しで届かずに割れてしまった。
―これコリウスって言うの。
花を咲かせずに、初夏から秋まで長く、葉の色彩を楽しむことができる。―