「いい成績を取って、いい会社に入るんだ。第一、学生なんて遊んでるようなものだ。せめてその中でいい成績くらい取れなくてどうする。いいか、春樹。付き合う人間は厳選しろ。下手な人間ばかりと付き合ってると、自分がクズになるぞ」
「桃木はクズじゃない!」
――それは、加奈恵が知る限り初めて見る、春樹の怒号だった。
一瞬、裕司は怯んだように見えた。が、火に油を注いだだけだ。
「親に向かってその態度は何だ!!」
裕司は怒って立ち上がった。春樹と睨み合いになるが、その瞬間、昔殴られそうになったことが加奈恵の脳裏に蘇った。春樹が危ない、そう思った加奈恵は、咄嗟に春樹の前に出てしまっていた。春樹が目を丸くする。
「加奈恵、そこをどけ」
「いや」
「そこをどけと言ってるんだ!」
「い、いや!」
加奈恵は震えそうになるのをこらえて、必死にその場から動かないようにした。後ろにいる春樹が、すっと加奈恵の肩に手を置いた。……恐らく、春樹も裕司を睨んでいるのだ。裕
司の表情が一層忌々しげなものになった。
「ちっ。……母親にばっかりなつきやがって」
裕司は踵を返し、どすどすと足音を荒げながら自室に戻っていった。加奈恵と春樹は、ほうっと息をついた。
***
この時を境に、春樹の裕司に対する態度は変わっていった。
そしてこの後、加奈恵は自分たちの家の問題点に、漸くはっきりと気付くのであった……。
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桃木さんの件があって以来、明らかに裕司に不信感を募らせていた春樹。それを見かねて加奈恵がとった行動とは!?