誕生日を神尾と過ごすことが出来たアユミ。
だが思いとは裏腹に不安な翌日を迎える・・・?
「ねぇ、リサお願いできないかな」
電話口でアユミはリサに申し訳なさそうに懇願した。
「んー、私は別に……というか、もちろんいいけど、旦那さんのスケジュールがどうか確認しないといけないから、すぐには返事できないかも」
神尾とのデートから一夜明け、アユミは朝イチでリサへ電話した。
昨夜の誕生日デートは、結論から言えば、何もなかった。いや、何もなかったと言うのは語弊がある。
ラ・グランターブルドゥキタムラで絶品フレンチを堪能した後、いつもと同じように近くのバーへ移動した。あまり来たことのない高岳だが、良さそうな店がぽつぽつとある。
さすが有名グランメゾンと言うべきか、他のテーブルではプロポーズされているカップルもいたというのに、神尾からは期待した告白もなく、プレゼントもなかった。
人間、勝手に期待して叶わなかった時ほど、裏切られたと感じるもので、アユミも例にたがわず、勝手に予想した勝手な願いが叶わなかったことに、少々ふてくされたような気持ちになっていた。
だが。
「神尾さん、これ」
2軒目のバーへ向かう夜道の中、アユミはボッテガヴェネタの紙袋を差し出した。
「え、なに?」
「お礼なの。いつもご馳走してもらってるし、今日も誕生日に素敵なお店連れてきてくれて嬉しかったから」
「いや、それは別にいいけど。おれ誕生日プレゼントなんて、用意してないよ」
神尾はそれを見て、全く予期していなかったというように、目を丸くした。
その様子に、アユミは内心(しまった)と後悔した。モノを送り合うのはカップルの特権。神尾はまだアユミとそういう関係を求めていないのだと瞬間的に感じ取ったのだ。