「だめ、ですか」
「いや、だめってわけじゃないです。愛沙さんに辛い思いをできるだけさせないように、これからますます頑張ろうって思いますが…。正直に言います。僕は、結婚しても女の人には働いて欲しい。できれば、奥さんにはお店を一緒に手伝って欲しい」
清水によると夫婦でお店に立つのが夢らしい。
お店は繁盛しているといっても、不安定な収入だからこそ、二人三脚で力を合わせ苦楽を共にしたい、と。
熱弁する清水の話を、愛沙は黙って聞いてきた。
お見合いが進んでいくと、お互いの価値観の確認、すり合わせが必要になる。
子供のこと、家のこと、仕事のこと。
避けられない話題だからこそ、早い段階で確認されるのは当然だった。
「清水さんのお気持ちはわかりました。…少し考える時間を下さい」
条件を絞りに絞ってやっとこぎつけたお見合い。
みすみすチャンスを手放したくなかった。
清水とは水族館デートで連絡先を交換した。
それから毎日ささいなやり取りをしている。
―帰ったら清水さんから連絡きてるだろうか。
仕事が終わってラインを確認するのが、愛沙の日課になっていた。
大方清水の方から連絡がくる。
〝休日は何をされているんですか″
〝エステに行ったり、お店の手伝いをしたりワインを買いに行ったりしています。清水さんは何をされていますか″
〝ワインお好きなんですね。僕もワイン好きです。休日は食べ歩きか、山登りに行っています。今度一緒に山登り、どうですか?″
清水とは会話のテンポも合い、思ったよりも楽しい。
―そういえば、毎日の連絡を楽しみと思ったことって、今までなかったかも。
―条件も良いし…