「どうしたの?」
駒沢の声で我に返る。
「あ、いえ、何でもないです」
頭が真っ白になり、視界が揺れる。
―あれ、彼女?まあ、そうよね。あんなにかっこよくてスペックもいいもんね。いや、でもまだわからない。
愛沙は一番のお相手候補の気持ちが自分にないのではないかと、静かにショックを受けていた。
「お昼はどこで食べようか」
「うーん、どうしましょうか」
呑気に尋ねる駒沢に、気の利いた返事をする余裕もなかった。
思えば、〝りと″が本命なのだから、駒沢とデートする理由もない。
年齢も若い、収入も高い、顔も文句なし。
明らかに〝りと″の方が勝っていた。
よりハイステータスの男性と結婚し、家族に認められる。
それが愛沙の目標だったのだから。
そう思ってしまうと、このあとのデートは急に無意味なものに感じられる。
―早く帰ってしまいたい。
そう思いながら過ごす駒沢との時間は、苦痛でしかなかった。
「気分悪い?」
と気遣ってくれるも、
「いえ、そんなことないです」
と笑顔で返すのが精いっぱいであった。
帰宅して自室に着くと、すぐにマッチングアプリを開く。
〝りと″に対するもやもやが消えない。
何をしていたかさり気なく聞きたい。
が、アプリ内のたった一人の頼みの綱を失ってしまうのは困る。
とりあえず林に駒沢とのデートを報告しなければと携帯を手に取る。
―駒沢さん、〝りと″さんより劣るけど…一応キープしておこう。
愛沙は、〝りと″との関係がだめになったときの保険として、駒沢にOKを出すことにした。
再びアプリを開く。
‶りと″のデートの誘いに、愛沙が
〝ぜひお会いしたいです″
と返信したところでメッセージは途切れていた。