「初めまして。真奈美さんとお付き合いさせていただいております、森山友則と申します」
森山と名乗った真奈美の彼氏は、端正な顔にすらっとした手足の男前であった。
いかにも高級そうなスーツが良く似合っている。
「お口に合うといいのですが…」
と差し出した手土産は、銀座の老舗和菓子店のあんみつ。
「まあ。そんな、いいのに~。お気遣いいただきありがとう」
紳士的な振る舞いの婚約者に、和菓子好きの母親はすっかり心をもっていかれたようだ。
居間で5人、まだまだぎこちない雰囲気で会話をする。
いただいたあんみつをつつきながら、愛沙は静かに妹カップルを見ていた。
友則は都内で医師をしていて、数年後には父親の病院を継ぐ予定らしい。
談笑が一段落したころ、父親が踏み込んだ質問をする。
「ところで、森山君はうちの娘のどこを気に入っているのかな」
友則が緊張した面持ちで、父に目を向ける。
「真奈美さんはしっかりされていて、頼りない僕をいつも支えてくれます。真奈美さんとなら暖かい家庭が築けると思います」
そこまで言った彼の肘を、真奈美はちょんちょんとつつく。
二人見つめ合い、照れた笑いを浮かべる。
意を決したように、友則は両親の顔を見る。
「おとうさん、おかあさん。真奈美さんと結婚させてください」
頭を下げる友則。
「娘さんに苦労はかけさせません。必ず幸せにします」
「実は、お腹の中に赤ちゃんもいるの」
お腹をさすりながら真奈美が言う。
両親はそこまで想像していなかったようで驚いていた。
「そうか…。こんな娘をもらってくれてありがとう。まあ、大変なことはあると思うけど…娘をよろしく」
同じく頭を下げる父。
喜ぶ両親、ほっとする表情を浮かべる友則、笑顔の真奈美をよそに、愛沙は静かに激しい感情に囚われていた。
―なに?!姉のわたしを差し置いて先に結婚するなんて!わたしの方がモテてきたのに!しかも、条件いいじゃない!