―なんでわたしを振ろうと思うの?!
―わたしを選ばないなんてどうかしてる。
なぜ…なぜ?という疑問と不満が頭の中をぐるぐるしていた。
「和食が作れるのは、ポイント高いでしょうから、どんどんアピールしていったらいいと思いますよ」
清水がなにやら助言をするが愛沙はうるさい、と思っていた。
―わたしはあなたが良いのに…どうして選んでくれないの。
発狂しそうな気持ちを何とか抑え、歩みを進める。
「こんなに美人とデートできて僕はラッキーでした。愛沙さんならすぐ結婚相手が見つかりますよ」
―本当にそう思うなら結婚してくれたらいいのに。
このままでは爆発しそうになるからと、車で送るという清水の誘いを断り、タクシーを拾うことにした。
「それじゃあ、ありがとうございました」
素っ気なく言う愛沙に、清水は心配そうに手を振る。
「はい。お元気で」
パテントレザーのパンプスがもつれる。
ヒールはそんなに高くないはずなのに、歩きにくい。
―そろそろ、本当に結婚決めなきゃな…。
暗くなり始めた道に、愛沙のヒールが寂しく鳴っていた。