30代になると、周りも既婚者が多くなり出会いもない。
次の彼氏を早く見つけなければと、愛沙は寿退社をする予定の美里に声をかけることにしたのだった。
「美里ちゃんの旦那さん、経営者なんだよね。どこで出会ったの?」
なるべく条件が良い男性を紹介してもらえるように誘導する。
「ENHANAっていうマッチングアプリです」
「マッチングアプリ…」
今まで何もしなくても言い寄られてきた愛沙には、マッチングアプリで婚活することには少しためらいがあった。
「あれ、でも先輩彼氏いませんでしたっけ?」
ああ、この子にはまだ言っていなかったか、と若干面倒だと思いながら、彼とは別れたことを告げた。
「え!あのお金持ちイケメン彼氏と別れちゃったんですか!もったいない」
美里には以前、彼の写真を見せては自慢していた。
わたしだって別れたくて別れたわけじゃない、とカチンときたが、黙っておいた。
「婚活初心者の先輩には、結婚相談所がおすすめですよ!」
「結婚相談所ってよくわからないのよね」
「無料相談あるみたいですし、行ってみたらどうですか?」
「そうね…」
結婚相談所なんて、結婚できない男女の最後の砦だと思っていた。
わたしにはまだその必要はないのではないか、と渋っていると、それを察したのか美里が言う。
「じゃあ、一回婚活パーティーに行くっていうのはどうですか。そこでどんな人がいるのかとか、雰囲気とか掴むのもアリじゃないですか?」
そうして教えてもらったのが、今回の婚活パーティーである。
申し込みの際に調べたのだが、男性は参加に厳しい条件がある。
身長175センチ以上、かつ大企業勤務や士業などで年収800万円以上。
資格証明書や身分証の提示が必要のようだ。
―これならわたしの条件に合う人見つかるんじゃない?
わたしが婚活なんて、と思いもしたが、勇気を出してスマホの参加ボタンを押したのだった。
会場は名古屋市にあるお洒落なお店。
優しいオレンジの照明が灯った店内は、落ち着いた上品な雰囲気を醸し出している。
どうやら、店内をまるごと貸し切っているらしく、見たところ一般の客はいないようだ。