里香から手土産としてもらった、銀座ハプスブルク・ファイルヒェンのクッキーを花柄のお皿に出した。
紅茶は、ウエッジウッドのワイルドストロベリーというティーカップ&ソーサー―を使った。
京子のお気に入りだ。
それだけでこの歓声は、用意をしたこちらとしても鼻が高い。
「ふふふ。そんなに喜んでくれたら、わたしもうれしいわ。」
ふたり並んで、ソファに座る。
紅茶を一口飲み、一息つく。
「ほーっ。」
里香が斜め上に顔を向け、目を閉じて口を「ほ」の形にする。
その表情は、本来心を許した人の前でしか見せないものだ。
心底幸せそうで、どこか色気さえ感じさせる。
「いやー、冬にはあったかい飲み物ですね。」
「そうね。寒い日に飲む温かいものは、体の中から温まるね。」
「はい!でも、こたつで食べるアイスも最高ですよ。」
イヒヒ、と笑いだしそうな笑顔を向け、紅茶をもう一口口に含む。
里香がソーサーにカップを置き、一呼吸おいて京子は話し始めた。
「今日は、どうしたの?」
「…はい。」
それまでの明るい笑顔もどこへやら、真剣な表情を浮かべる。
「京子さんは、わたしの旦那には会ったことないですよね。」
「ええ。まだお会いしたことはないと思う。」
「そのほうが、都合がいいかな。京子さん、今から話すこと、内緒にしていてほしいんです。友達にも相談できなくて…。」
里香が京子の表情を一つも逃すまいと、まっすぐと見つめる。
その雰囲気に、思わずどきりとしてしまう。
「もちろん。誰にも言わないわ。」
京子の強めの口調に安心したのか、里香が続ける。
「ありがとうございます。周りの人には、わたしたち夫婦は、きっと仲良しカップルに見られていると思うんです。こんな話をしなければ、京子さんもきっと、そう言ってくれるでしょう。…クッキー、食べてもいいですか。」
「ああ、どうぞ。」
手前の四角いクッキーを二口で完食する。
クッキーを咀嚼しながら里香はしばらく視線を動かしていたが、やがて唇をかみしめ、話し始めた。
「…長い話になるので、気楽に聞いてください。」