NOVEL

年収一億超えの妻たち vol.8~疑惑~

「えっ・・・どういうことよ、これ?」

妻の心に差し込む光を打ち消した新たなる疑念とは。

 


前回▶年収一億超えの妻たち vol.7~収穫~

はじめから読む▶年収一億超えの妻たち vol.1~結婚記念日なのに~

 

(彼と心を通わせたい・・・)

 

心の中に宿した熱い想いを噛みしめながら一歩を歩み出す。

 

「アナタ、上着を」

「あ、ああ、すまないな」

 

そう一歩を踏み出し、彼から上着を受け取る。

それは何時もならば早苗さんの役目であったが、私の行動を目にし、彼女は空気を読んだのだろう。

 

直後、彼女は早々に目立たぬ場所へと移動する。

 

その後、夫の姿が見えなくなるのを確認し、嬉しそうな顔で彼女は静かに告げた。

 

「やりましたね、奥様。一歩前進ですよ」

そして、早苗さんは上着と私を残し、足早にその場から立ち去る。

 

(さて、どうしようかな。この上着?)

 

とりあえず、何となく受け取った上着を見つめながら私はその場で立ち尽くす。

正直なところ、その後の事を考えていなかった。

それは浅はかとしか言えないことではあったが、行動を優先したのだから仕方がない。

とはいえ、今までただ考えるだけでそれを行動に移して来なかったのだから、思いを行動に移せただけでも大きな進歩だ。

 

そうよ…これから、ちゃんと考えて行動に移せるようになればいいだけの話。

 

自分をそう納得させ、私は上着を片付けるべく、クリーニングルームへと向かう。

その後、私は上着から持ち物を取り出そうと、ポケットに手を入れた。

 

しかし・・・。

 

「えっ・・・どういうことよ、これ?」

 

胸元のポケットから手にしたハンカチを目にし、思わず身を硬直させる。