「えっ・・・どういうことよ、これ?」
妻の心に差し込む光を打ち消した新たなる疑念とは。
はじめから読む▶年収一億超えの妻たち vol.1~結婚記念日なのに~
(彼と心を通わせたい・・・)
心の中に宿した熱い想いを噛みしめながら一歩を歩み出す。
「アナタ、上着を」
「あ、ああ、すまないな」
そう一歩を踏み出し、彼から上着を受け取る。
それは何時もならば早苗さんの役目であったが、私の行動を目にし、彼女は空気を読んだのだろう。
直後、彼女は早々に目立たぬ場所へと移動する。
その後、夫の姿が見えなくなるのを確認し、嬉しそうな顔で彼女は静かに告げた。
「やりましたね、奥様。一歩前進ですよ」
そして、早苗さんは上着と私を残し、足早にその場から立ち去る。
(さて、どうしようかな。この上着?)
とりあえず、何となく受け取った上着を見つめながら私はその場で立ち尽くす。
正直なところ、その後の事を考えていなかった。
それは浅はかとしか言えないことではあったが、行動を優先したのだから仕方がない。
とはいえ、今までただ考えるだけでそれを行動に移して来なかったのだから、思いを行動に移せただけでも大きな進歩だ。
そうよ…これから、ちゃんと考えて行動に移せるようになればいいだけの話。
自分をそう納得させ、私は上着を片付けるべく、クリーニングルームへと向かう。
その後、私は上着から持ち物を取り出そうと、ポケットに手を入れた。
しかし・・・。
「えっ・・・どういうことよ、これ?」
胸元のポケットから手にしたハンカチを目にし、思わず身を硬直させる。