そう…今だけは純粋な心で彼の熱と想いを感じられる…。
「もっと強く抱きしめて…」
「分かった」
翔平はその言葉に応じ、私を強く抱きしめた。
体の外側と内側に生じる熱気。
その熱を全身で感じ取り、思わず安堵する。
もし仮にこれが仮初の愛情だったとしても私には…。
この身を焦がすような熱気が必要だった。
そして、熱烈に求め合う幻想のような時間が終わり、静けさの中で燃え盛るような熱気が引いて行く。
行為の後、さっきまでの情熱的な時間が嘘だったかのように夫の態度も冷めていた。
こうして私たちは、夜の営みでかいた汗をバスルームで流し、再び床に就く。
その後、一切会話はなかった。
まるでさっきまで行われていた夜の営みが夢や幻だったかのように、私たちの中から瞬時に消え失せる。
(私、本当に愛されているのかな?)
行為の後で体に疲労感はあったが、そんな不安が脳裏を過り、すんなりと眠りにつく事が出来なかった。
そして、そんな多くの迷いと不安を抱えながら私は静かに目を閉じる。
それから…どの程度の時間が経過したのだろうか?
気が付けば朝になっていた。
時間は午前7時半。
いつもの起床時間と大差のない時間だった。
でも…。
「おはよう、早苗さん。あれ、早苗さんだけなの…?」
「おはようございます奥様。あ、はい、旦那様は早朝から会議との事でいつもより早く出かけられました」
「そう…なんだ…」
早苗さんから翔平が既に出勤していることを告げられ、妙な違和感を感じ私は思わず顔をしかめる。
今まで、こんなことはなかった。