だが、そんな時だった…。
「もしかして、この前のことをお悩みですか、奥様?」
不意に声をかけられ、思わず顔を上げる。
「え? 何で早苗さんがここに?」
「奥様のことが気になったので、様子を見に来ました」
「え、ええ…、実はそうなの」
不意に放たれた早苗さんのそんな問いに少し迷いながらも私は答えを返す。
「それで何をお悩みになっているのですか?」
「何とか接点を持とうと話しかけてはみたんだけど、なかなか上手くいかなくて…」
「そうですか。でしたら他の人と馴染めていない方に声をかけてみてはいかがでしょうか?」
悩みを打ち明けた直後、彼女は微笑みながら私にそう告げる。
正直、早苗さんが何を意図してそう言ったのかは分からなかった。
しかし…。
周囲を見渡すと早苗さんが言うような特徴を有した女性が一人ベンチに座っていた。
他のママたちとは馴染めないのか、それとも…。
(どうしよう、あの人に声をかけてみた方がいいのかしら?)
当然といえば当然なのだろうが、全く縁のない人に声をかけるのは正直、緊張を伴なう。
そんな思いを見透かされていたのか、背中を押すかのように早苗さんが言う。
「あの方に声をかけてみてはいかがですか、奥様?」
「え、ええ、そうね」
その後、私は幾分かの不安を抱えつつも、その女性に声をかけてみることにした。
「あの…公園にはよくこられるのですか?」
「え、ええ…たまにだけど。貴女もそうなの?」
「いえ、私は今日初めて来ました。子供が小さいこともあってかなかなか、足が運べなくて」
「そうなの、私の方も二人目の子供がまだ一歳なの。なんか奇遇ね?」
そして、この日を境に私は彼女…野村安奈さんと交流を持つこととなった。
「それじゃあ、少し出かけてくるね、早苗さん」
「はい、行ってらっしゃいませ、奥様」
こうして交流が始まってから既に二週間が経過し、気が付けば私は安奈さんと様々な事を話せるようになっていた。