苦笑いしながら最後まで読み進めて、ふと視線を止めた。
“追記 いっしょにホタルをみたいです”
(・・ホタル? どう言う意味?)
自分の書いた文字を読み返す。
「交換な!」
不意に言葉が蘇ってくる。
20年前、克哉が手紙を書きながら紗希に放った一言。
(そう手紙を交換しようって約束をしたんだっけ)
「どうかした?」
隣にいた由衣が覗き込んでくる。
「・・ねぇ、克哉くん。今日は来ないの?」
紗希は気になっていた一言を口にする。
幹事にもなっていたはずだ。
その瞬間、由衣が顔を強張らせたのが分かった。
ひとつ向こう側に座っていた後藤先生も持っていたフォークを宙で止める。
「?」
紗希がもう一度口を開きかけた時、後ろの席から声がした。
「克哉くん、可愛そう」
振り向くと同級生の大塚雪菜が目を潤ませて紗希を睨みつけていた。
「やめろって」
隣の石川翔が低い声で囁くように制する。
「だって!紗希ちゃん、何も覚えてないんだもの!!」
雪菜が堪え切れないように叫んだ。
「そうよ、ひどいわよ!」
違う席で誰かが声を上げる。
「・・どういうこと?」
紗希は雪菜の方に向き合おうと立ち上がる。
「紗希ちゃん、いいから」
紗希の手を引っ張って止めようとする由衣の手を振り払おうとしたとき雪菜の悲痛な声が響いた。
「克哉くん、死んじゃったんじゃない!本当に忘れたの?信じられない!!紗希ちゃんのせいで!」
シンと静まり返った店内にただBGMの音色だけが響いていた。
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