紗希の机の上を整理しながら、母は話し続けている。
「スープにする?それともお味噌汁?」
朝から洋食、和食の両方を手作りする。
紗希が小さな時から、それは変わらない。
「・・今朝はコーヒーだけでいいわ」
「あら、だめよ。何か食べないと。サラダだけでも食べなさい、ね?」
母が紗希の意見を聞き入れることはない。長年の付き合いで分かっている。
サラダを食べる時間があるなら、もう少し眠っていたい。
母は紗希のことを見ている様で見てはいない。
もうずっと、そう。
いつもなら既に気にすることもないけれど、今朝は何かが胸の中でチリッと芽生えた。
11時AM
ピンポーン。
珍しく、母は買い物に出かけている。
ドアホン越しに郵便配達員が速達を届けに来たのだと伝える。
紗希はオートロックを解除してポーチで郵便物を受け取った。
それは紗希宛の封書だった。
差出人を見ると、懐かしい名前が記されている。
“斎藤由衣” 小学校の同級生の名前だった。
どこか特徴を残す筆跡に懐かしさを覚えながら封を切る。
簡単な挨拶文と共に入っていたのは同窓会のお知らせだった。
“回想”
20年前 3月1日 2時PM
「ね!これ、20年後に開けよう!」
「いいね!20年後って何歳?」
「おばかさんね。今、12だから32歳じゃない!」
小学校卒業間際の教室。
みな、口々に騒いでいる。
クラスで卒業を記念して何かしようということになり、20年後の自分に手紙を書くことになった。
手紙は担任の後藤先生が用意してくれた地球儀の中に入れることにした。