NOVEL

【新連載スタート】運命の輪 vol.1~動きだす“時間”~

公認会計士事務所に勤め、過干渉な母と二人暮らしの紗希は平凡な毎日を送っていた。

そんな彼女のもとにある日、20年越しの同窓会のお知らせが届く。

小学生時代の友人との再会がきっかけとなり紗希の“運命の輪”は思わぬ方向へ大きく回り始めていく!


 

202X年4月15日 2時AM

 

最後の数字の桁がピタリと合った。

「終わった・・ん…疲れた」

 

紗希はペンを置いて伸びをした。

無性に甘いコーヒーが飲みたい。

仕事の後は、いつもそうだ。

サイフォンにお湯を注ごうと、キッチンへ向かう。

 

時計の針は2時少し過ぎたところ。

窓の外は月明かりだけが差し込んでいる。

期限までには時間があるけれど、仕上げないと気が済まない。

仕事に限らず、昔からの性分だ。

疲れもあって紗希は小さなため息をつく。

 

中高一貫校をトップクラスの成績で卒業し、現役で名古屋大学に入学した。

通っていた予備校の講師は東京大学を勧めたが、母が許さなかった。

そもそも大学を変えることも快くは思っていないようだった。

「どうしてもと言うなら家から通えるところ」が絶対条件だった。

 

大学三回生の時、公認会計士試験に一発合格。

入学時からWスクールで試験対策を重ねてきた成果だった。

 

夏の論述試験も上位成績で合格し、インターンに採用された。

卒業後はそのまま、正職員として勤めている。

 

試験は嫌いではない。

何よりやった分だけ、成果が上がるのが面白い。

 

そういう意味ではこの仕事は性に合っている。

就職してからも、何度となく試験をクリアしてきた。

学生のように試験をクリアする度、事務所内での地位が上がる仕組みだ。

ある意味クリアで公正なシステム。

正確性と効率が求められるゆえ、余計な感情は必要とされない。

無駄がない流れは心地よいとさえ感じられる。