「お疲れ様です。はいっ。今ですか?自宅に戻ったところです。はい…はい…わかりました。すぐにタクシーで向かいます」
そう言って電話を切るとハンガーにかけたジャケットを再び羽織った。
「奈緒美の気持ちはわかったから。悪いけど急な接待で呼ばれちゃったから行くね」
そう言い残すと康平は接待へと出て行ってしまった。
1人泣いてる私を残して。
(こんな時くらい・・・ せめて私が泣き止むまででもいいから、そばで慰めてくれないの・・・)
(康平の中では私より仕事が優先なんだ・・・。泣いてる私を置いて向かうほど仕事に恵まれているのが羨ましい・・・)
私の中でネガティブな感情が湧水のように溜まって滴り落ちる。
誰も慰めてくれない沈黙の空間が私の心を余計に追い詰める。
窓の外の景色を見て気が遠くなるのを感じた。
「ゔぇーん!」
勇希の起きた泣き声でハッとした。
現実に戻ってきた私は即座に冷静さを取り戻した。
「少しお散歩に行こっか・・・」
このままこの籠の中にいては私が私を見失ってしまう。
そんな焦りから私は勇希を抱いて夜の公園へと出掛けた。
-夜の公園での再会-
勇希をベビーカーに乗せて外に出ると、夜風が気持ちよく流れていた。
こんな街中の高層マンションでも、ふと地上に下りれば鈴虫の泣き声が聞こえるのは不思議である。
星の見えない夜空で一際目立つ大きな月を2人で眺めながら夜道を歩いた。
公園に着くといつものベンチに着いた。
ここはいつの日も、心が落ち着く私の唯一の拠り所となっていた。
夜の公園ということもあり真っ暗な中、あちらこちらで花火の明かりが灯っていた。
そしてそれぞれの灯の中には暖かな家族の姿があり、それぞれの家族で花火の色は違えど、
家族それぞれの幸せの色で輝いているように感じた。
(家族っていいなぁ・・)
私にだって家族はいるはずなのにふと、そんな羨む感情が生まれた。
(こんな綺麗な月の下でこんな幸せそうな家族の集まる公園で、孤独感を感じているのはただ1人。私だけ・・・)
気持ちが落ち込みかけたその時だった。