NOVEL

夫婦のカタチvol.4~届かない声~

「こんばんは」

そんな声に驚いて振り向くとそこにはこの前、勇希が怪我をした時助けてくれた先輩ママが立っていた。

後ろには旦那さんが子供の手を取り、私に会釈をしている。

「あの時はありがとうございました。救急車に乗り込むのにバタバタしてお礼もしっかり言えてなかったので。お陰様で何事もなく無事でした」

「いいのよ、気にしないで。けど、こんな時間に子供と2人でお散歩?」

 

そう聞かれ「夜風にあたろうと・・・」と濁す私に何かを感じたのか、先輩ママさんは旦那さんと子供を先に帰らせ、私とママ友として話してくれた。

先輩ママさんの名前は綾香さん。

31歳でwebデザイナーの仕事をする働くママさんだった。

4歳の男の子直人くん、旦那さんの修司さんと3人家族で、偶然にも私と同じマンションの

中層階に住んでいた。

 

「で?奈緒美さん、こんな夜の公園でベンチに座ってなんかあったんじゃない?実はこの前慌てる奈緒美さん見て、昔の自分みたいだなぁって勝手に少し心配しちゃってね」

 

綾香さんには今の私の気持ちが筒抜けのようだった。

私は綾香さんの優しさに甘えワンオペ育児への不安、孤独感、社会に取り残されていくような感覚、そして仕事に夢中な康平と遠のく距離感、全てのモヤモヤを吐き出すように語った。

 

ただ誰かに聞いてもらえる。

それだけのことが今の私にはとても嬉しく感じられた。

 

夜風が冷たくなってきたのを感じ、綾香さんと勇希と3人でマンションへ向かった。

 

そして別れ際に綾香さんが

「子育ては1人じゃないからね。明日よかったらうちに勇希くん連れて遊びにおいで!」

そんな嬉しい誘いを受けた。

 

(今日という1日がこんな明るい気持ちで終われてよかった)

 

暖かい気持ちの中、隣に康平がいないベットに包まれて、ぐっすり眠りに落ちていった。

 

 

 

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息子・勇希がケガをしたとき助けてくれた先輩ママ・綾香とお互いの自宅を行き来するほどになり、奈緒美の孤独感は薄らいでいく。一方、奈緒美の夫・康平は家族に対してある感情が芽生えていた。