NOVEL

夫婦のカタチvol.4~届かない声~

「ただいま」

キャリーケースを引いた康平が数日ぶりに家へ戻ってきた。

心にシコリが残る私の口から出た「おかえり」は、自然とどこかそっけなくなってしまった。

康平の表情からもそれに気づいているのが感じ取れた。

 


前回▶夫婦のカタチ vol.3~孤独な籠~

はじめから読む▶夫婦のカタチ vol.1~失ったもの~

 

-心の叫び-

 

勇希はとても嬉しそうに「パパ〜!」と叫ぶと、宙に浮いているようなヨチヨチ足で康平の元へ駆け寄った。

康平の足にしがみついて戯れる無邪気な勇希の存在が、今の2人の緩和剤となっていた。

 

それでも何事もなかったかのような顔をして、ダイニングに座る康平。

帰宅時間に合わせて作っておいた彼の大好物のクラムチャウダーを、なんのリアクションもなくテレビを見ながら黙々と食べる。

 

このまま私の気持ちをうやむやにできない。

そう思った私は康平の見入っているテレビのリモコンを取ると、電源ボタンを押した。

 

(やっぱりか・・・)という康平の心の声が聞こえたような気がした。

 

私はバツの悪そうな康平に、感じていたことを全て打ち明けた。

1人で育児を抱え込んでしまったこと。

社会から孤立していくような感覚。

どれだけ頑張っても完璧な母親になりきれない自分への悔しさ。

そしてこの悩んでいる気持ちが康平にわかってもらえない虚しさ。

 

全てを感じたままに話しているうちに私の視界は曇り、涙が溢れる。

地上から切り離されたタワーマンションの一室には、私のすすり泣く音だけが響き、時が止まっているようだった。

 

"ブー、ブー、ブー"

そこへ康平の仕事用のスマホが鳴った。

私が泣いている横で康平は当たり前の顔をしてスマホを取ると、切ることなく耳に当てて話し出した。