「勇希っ!どうしよう!痛いね。痛いよね。ごめんね。ママが目を離したせいで…」
頭の中がぐるぐると回る。
私の大切な子なんだから私一人でどうにかしないと。
私がなんとかしないと。
私、私、私・・・。
パニックで何も動けない。
私の目元には次第に涙が溢れ、視界が曇ってきたその時だった。
「大丈夫!?あら痛そう!!」
勇希より少し年上の子供を連れた先輩ママさんが声を掛けてくれた。
「大丈夫ですか?あら大変、腫れてるじゃない」
「とりあえず救急車呼ぶね。お子さんの年齢は?」
「僕、お名前なんていうの?」
「勇希くん、痛いの我慢我慢して偉いねえ。すぐに救急車来るからね」
「救急車が来るまでに頭冷やしておこうね」
子供を抱きかかえると水道まで走っていく先輩ママの後姿はとても頼もしく、私の焦る気持ちを少し落ち着かせた。
濡らしたハンカチを勇希のおでこに当てながら
「ママ、大丈夫だから。気をしっかりね。大丈夫。子供はこう見えて強いから」
先輩ママは私のことを宥めてくれた。
そうしているうちに救急車が着き私と勇希は車内に乗り込んだ。
「本当に、本当にありがとうございました」
お礼を言うだけで精一杯だった。
「救急車乗ったらもう大丈夫。お気をつけて!ママ頑張って!」
そう明るく声を掛けられると救急車は病院へ向けて発進した。
ここまで勇希と二人三脚、親子として立派にやってきたつもりだったのに…。
今日の出来事で「母親としての自分」に対して、自信が失われてしまった気がする。
私もいつかあのママみたいに、頼もしい母親になれるだろうか。
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奈緒美は転んで頭をぶつけた息子の勇希が病院から帰宅を許され一安心するも、ふとスマホに目をやると夫・康平から大量の不在着信とメッセージが届いていた。