私は康平に言われた通り、産休と同時に退職をして家庭に入った。
そしてお腹は大きくなり続け無事に元気な男の子を出産した。
-妻からママへ-
名前は勇希。
康平が1番気に入った名前にした。
結婚してからも私たち夫婦は月に一度のデートは欠かさずに行っていた。
「来月は何を食べに行こうかなぁ」
「話題のスポットは気になるね」
という会話が私たちの日常の定番だった。
しかし子育てが始まると夜泣きで寝不足の日々が続き、ウンチとミルクに追われる毎日が始まった。
働きに出ている康平と家庭に篭っている私の生活リズムは当然合わせることが難しく、暮らしにおいても、気持ちの面でもすれ違いを感じるようになった。
「家庭に入っている以上、私がしっかり勇希の面倒をみて、なるべく仕事に行く康平に負担をかけないようにしないと」
「私は家に毎日いるのだから、康平の帰る家は常に綺麗に保って家事も完璧にこなさないと」
専業主婦という肩書きに押しつぶされるように、私は気持ちを追い込んでしまっていた。
自分でも追い込み過ぎだとわかっている。
けれど、康平に頼る心の余裕もない。
昼の情報番組のトークテーマでふと流れてきた「ワンオペ育児」という言葉。
まさしく今の私を表しているように感じてしまった。
-勇希と向き合う2年間-
勇希が産まれてから2年、私と康平の間には
「恋愛的な感情」が流れることはなく「家庭を運営するパートナー」としての実務的信頼関係だけが残っていた。
康平はこの2年でキャリアを着実に積み重ね、今では部署の顔として推される若手エース的存在にまで昇りきっていた。
勇希が産まれたばかりの頃は必ず20時には帰ってきていたのに、今では23時を過ぎるのが当たり前。
週に一回は0時を超えることもあった。
せっかく家族3人で過ごせる土日も、ゴルフ接待での外出や家にいても1日中書斎に籠る事が増えた。
経済力で支える康平と家事、育児で支える私。
この信頼関係で勇希をここまで育て上げ、2人の関係を繋いでいた。