私が求めていたのはこの返事だったのだろうか。
積み上げたキャリアが崩れる、悔しい気持ちをわかってほしかったのか。
それでも
大丈夫、頑張ろうって、働く背中を押してほしかったのか。
自分でもわからない。
けれど康平から返ってきたのは
「子供のため」「家族のため」を盾に使った、私の今まで積み上げてきたものを諦めるという選択肢だった。
「辛いけどそれでも仕事を諦め切れない! 私頑張り続けたいの」
心の中では見えていた答えが、「家族のため」と言われたことで私の中で塗り替えられた。
「・・・康平の言う通りかもね。
私、家庭に入って子供のためにも主婦として頑張ろうかな」
こう口にしながら私は気づいた。
私は居心地のよい康平の隣に居続けるため、嫌われないように困らせないように、
いつしか康平に合わせて
本当の自分を偽るようになっていた。
気づかぬうちに私は
自分の積み上げてきたキャリアも
そして自分自身も失っていた。
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家事・子育てに追われる日々を送る奈緒美は“すべてを完璧に”と自分を追い込み、専業主婦という肩書に押しつぶされそうになっていた。