「…ごめん。気持ちはありがたいけど…わたし、結婚とか、考えてなかった。」
何とも言えない気まずさを感じる。
部屋には画面越しにタレントの笑い声が響いている。
「幸枝は、俺と結婚するのが不安?」
やっと絞り出したような、か細い声で聞く。
「そうじゃないよ。わたしが他人と生活することに耐えられない気がするの。誰かと結婚すること自体に後ろ向きなだけ。」
「じゃあ、なんで今まで俺と付き合ってきたの。」
「公平といると楽しかったし、公平が好きだから。それ以外ある?」
穏やかに言ったつもりだったが、それが逆に公平に火をつけたようだった。
「好きだから結婚したいと思うんじゃない?俺は、幸枝が好きだから結婚したい。幸枝はどこか冷めてるように感じるよ。」
そんなことない、と言おうとして口をつぐむ。
幸枝は幸枝なりに公平を愛していたつもりだが、それが公平に届いていなければ意味がない。
今まで何度も言葉にして、わかってもらおうとしてきた。
―結婚することが、公平の言う〝愛″ならば、わたしはそれには応えられない。
「俺も今混乱してるから、冷静になれない。この話は、また今度にしよう。」
そう言って勢いよく立ち上がり、部屋から出る。
一人になった部屋では、相変わらずなにやら音が流れている。
公平はどういう気持ちか、幸枝はわかっていた。
自分の気持ちもわかっていた。
その上で、公平とはもう終わってしまうような予感がした。
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