「行こうか。」
塚本が促す。
なんだか、気恥ずかしくて、腹からおかしさがこみ上げてくるような気がした。
「星、きれいでしたね。」
プラネタリウムから出て、開口一番言う。
学芸員が生で解説してくれる話題は、見学者の年齢層によって変えているらしい。
今月のテーマは、名月についてだった。
「ほんとうだね。でも…正直言って、俺は途中から寝そうだった。」
申し訳なさそうに、軽く笑う。
「暗い中で、ゆったりとした話し声を聞いていたら、眠くなりますよね。」
まあね、と言いたげに微笑む塚本が正直でかわいいと思った。
ランチは、科学館から少し距離のある場所を予約してくれたらしい。
「さすがに、車乗るよね。」
とドアを開けながら言われたら、乗るしかない。
「じゃあ、お願いします。」
と一歩入ったときに、どんな匂いにも形容しうる、新車のにおいがした。
「え!すごい座り心地がいい!」
椅子に座った瞬間、幸枝は感動して声を漏らした。
「ははは。大げさだよ。最近の車は大体こんな感じのが多いと思うけどな。」
「そうなんですね。車のことは詳しくないので知らなかったです。」
高級な革製シートで包まれている感覚が心地良い。
ぽかぽかと暖かい太陽の光も相まって、気が緩んだら寝てしまいそうになる。
幸枝は塚本とのデートを、心臓が爆発しそうなほど興奮しながら、また、新鮮な出来事を純粋に楽しんでいた。
車は東区に入った。
徳川町を走っていると、
「もうすぐ着くよ。」
と塚本からアナウンスされた。
うとうととしている幸枝を気遣ってか、話題をすすんで提供しない。
睡眠欲に抗うことができず目を閉じていたのが、申し訳ないと思った。
同時に、初めてデートしたとは思えないほどの安心感を抱いた。