NOVEL

引きこもり女の裏側 vol.3 ~人生初のデート~

 

「行こうか。」

 

塚本が促す。

なんだか、気恥ずかしくて、腹からおかしさがこみ上げてくるような気がした。

 

 

 

「星、きれいでしたね。」

プラネタリウムから出て、開口一番言う。

学芸員が生で解説してくれる話題は、見学者の年齢層によって変えているらしい。

今月のテーマは、名月についてだった。

 

「ほんとうだね。でも…正直言って、俺は途中から寝そうだった。」

申し訳なさそうに、軽く笑う。

 

「暗い中で、ゆったりとした話し声を聞いていたら、眠くなりますよね。」

まあね、と言いたげに微笑む塚本が正直でかわいいと思った。

 

 

 

ランチは、科学館から少し距離のある場所を予約してくれたらしい。

「さすがに、車乗るよね。」

とドアを開けながら言われたら、乗るしかない。

 

「じゃあ、お願いします。」

と一歩入ったときに、どんな匂いにも形容しうる、新車のにおいがした。

 

「え!すごい座り心地がいい!」

椅子に座った瞬間、幸枝は感動して声を漏らした。

 

「ははは。大げさだよ。最近の車は大体こんな感じのが多いと思うけどな。」

「そうなんですね。車のことは詳しくないので知らなかったです。」

 

高級な革製シートで包まれている感覚が心地良い。

ぽかぽかと暖かい太陽の光も相まって、気が緩んだら寝てしまいそうになる。

 

幸枝は塚本とのデートを、心臓が爆発しそうなほど興奮しながら、また、新鮮な出来事を純粋に楽しんでいた。

車は東区に入った。

 

徳川町を走っていると、

「もうすぐ着くよ。」

と塚本からアナウンスされた。

うとうととしている幸枝を気遣ってか、話題をすすんで提供しない。

 

睡眠欲に抗うことができず目を閉じていたのが、申し訳ないと思った。

同時に、初めてデートしたとは思えないほどの安心感を抱いた。