NOVEL

引きこもり女の裏側 vol.8 ~誰にも言えない楽しみ~

つい最近まで恋愛に興味がなかった幸枝。

しかし、ビルさんに出会ってからマッチングアプリ思ったよりもいいな、と思うように。

ある程度遊んだら、人員を入れ替え、連絡が取れる人を最低3人は確保して・・・。

そんな幸枝の運命は一体?!

 


前回:引きこもり女の裏側 vol.7 ~あの頃の満たされた気持ち~

 

木曜日は、晴れやかな気分で目が覚めた。目覚めが良いからか、いつもより早くベッドからでる。

カーテンを開けると、柔らかい白い光が起きかけの目を刺激し、思わず顔を背ける。家を出る時間はまだまだ先だ。

 

思い立ってベランダに出る。どこかから自転車をこぐ、キコキコとさびれた音がする。

鼻から息を吸い込む。心なしか外の空気も澄んでいる気がする。

 

 

マッチングアプリを出会い系と呼び、嫌厭(けんえん)している人がいるのは知っている。そういう人は、人間の闇を知っていて、騙されることを心配している。

見ず知らずの人と出会って、本当に恋愛関係になれるのか、疑問をもっている人もいるだろう。今までの固定観念、育ってきた環境もある。リスクを恐れて、選択肢にもなく手を出さない。

つい最近まで恋愛にも興味がなかった幸枝は、そういった意見に同意も否定もしなかった。

 

マッチングアプリ思ったよりもいいな。

そう思えたのも、ビルのような人がいたからだ。

相性がいい人に出会う確率はそうそうないだろうが、そのスリルや宝くじ感も楽しい。

 

また、新しい人を補充しておかないとな。

 

ある程度遊んだら、人員を入れ替えたい。そして、連絡が取れる人を最低3人は確保しておきたい。

早速アプリを登録しなければ、とドアに手をかける。

朝日の光を背に受けて、まだ薄暗い部屋に足を踏み入れるのだった。

 

 

幸枝は遠心分離機にマウスの血液をセットし、スタートボタンを押す。核酸とたんぱく質を分離させるのだ。そして得られたたんぱく質を結晶化させ、立体構造を解明する。

それにより、免疫や体の構成など生命の営みを紐解いていく。

人体に役立つ薬を開発することが、幸枝の仕事だ。

毎日が緊張とワクワクの連続だった。