水曜日の夜は、仕事が立て込んでしまい、予定の時間に間に合いそうになかった。
〝すみません、遅くなります。″
Lineとは別のSNSの捨てIDを使い、Bに連絡を送る。
すぐに〝了解です。″と返信がくる。
〝良かったらどこかの駅まで迎えに行きますよ。″
とすかさず連絡がきた。
ホテルまで自力で行くには大変だと思っていた幸枝には、ありがたかった。だが、まだ会ったことのない人の車に乗るには、やはり抵抗があった。
〝ありがとうございます。でも、すぐ逝けそうなので大丈夫です。″
指定のホテルへと、タクシーで向かう。
―うわー、変換ミスってるし。
最近はそればかり検索していたからか、予測変換が良い仕事をしてくれたようだ。Bがスルーしてくれたことが、逆に恥ずかしかった。
部屋番号は聞いていたので、到着してから一直線に向かった。
階段を上がった先の扉は開け放してある。
自動精算機のようなので、本来ならパートナーと一緒に入室するシステムなのだろう。
「お待たせしましたぁ~…。」
恐る恐る入っていくと、バスローブを着てベッドで寛ぐたくましい男性がいた。肌がほどよく焼けていて、いかにもスポーツマンらしかった。
「お!来たね~!」
パッと起き上がり、二カッと笑う歯がまぶしく光っている。
「あれ、可愛いじゃん!」
「どうも。初めまして。すみません、お待たせして。」
〝かわいい″と言われたことに、気分がよくなる。
「いいよ、いいよ。大変だったね。なにか飲む?っていっても、水しかないけど。」
冷蔵庫から水を取り出す。
「いえ、今はいいです。お風呂ちゃちゃっと入ってきますね。」
「うん。ごゆっくり~。」
パワフルな人だな、と思った。これは、期待できるかも知れない。