NOVEL

2番目の女 vol.8 〜既読にならない週末〜

 

メッセージにはすぐさま既読がつき「おめでとうございます!!!」とはしゃいでる後輩の姿が目に浮かぶようなメッセージが届く。その言葉が、とても嬉しかった。

祝福される恋愛って、こんなに嬉しいものなんだと、私は感じた。誰にも隠さなくて良い恋心。こんなに幸せなことって、あるのだろうか。

仕事に行くと、案の定後輩がすぐに駆け寄ってくる。大輔くんとのことを根掘り葉掘り聞いてくる。

 

「向井さんの恋バナ聞けて嬉しいです〜」

 

恥ずかしそうに話す私をニコニコしながら見つめる後輩。小恥ずかしくなるが、悪くない。これが幸せだからこそ出る余裕なのだろうか。

 

思い返すと、これまで自分の恋バナを誰かにしてきたことがなかった。翔太とのことは誰にもバレてはいけなかったし、それまでの恋愛も相談できる相手なんていなかった。結婚相談所に通っていることは誰にも話していなかったし、担当の人にもまともな相談なんてしていなかった。

そんな私が今、後輩に自分が好きな人のことを話している。この事実が嬉しくて仕方なかった。30年以上生きてきて、初めてまともな恋愛をしているのかもしれない。

 

「彼氏とデートだから」と残業を断る。彼氏とお揃いのアクセサリーをつけて出社する。電話越しに彼氏の声を聞きながら眠りにつく…。

カップルだったら当たり前の日常かもしれない。だけど、私にとってどれもが新しい瞬間で、毎日を新鮮な気持ちで送ることができていた。

私と大輔くんは付き合ってから、これまで以上に頻繁に連絡を取り合うようになり、お互いの仕事が朝早い日以外は毎日のように電話をした。

 

いろいろなところへデートにも行ったし、お互いの誕生日やイベントの日にはプレゼントを贈り合ったりした。部屋が大輔くんとの思い出でいっぱいになり、私の心も幸せでいっぱいだった。

 

気付けば、大輔くんと付き合って1年が経っていた。

 

 

1年記念日は、普段だったら行かないような高級なレストランを大輔くんが予約してくれた。この日のために用意したフォーマルな服を着て、レストランへ向かう。

ホテルの最上階にあるレストランの窓からは、名古屋中の夜景が見渡せた。非日常な風景に、心が弾む。それと同時に緊張もする。

2人でシャンパンを頼んで乾杯をすると、次々に綺麗に盛り付けがされた料理が運ばれてきた。今までテレビでしか見たことがなかったような料理の数々。素敵なお店を探してくれた大輔くんに「ありがとう」と告げる。

 

運ばれてくる料理を口に入れると、口の中でそれはすぐに溶けてなくなる。高級店の料理なんて食べたことがなかった私でもわかる「高級料理」の味。体の中から幸せで包まれるようだ。

料理なんてなくなるのはあっという間で、気付けばデザートが置かれていた。それを口にしようとフォークですくおうとする。すると、ケーキの中で何か硬いものにぶつかった。

 

「あれ」

 

短く声を出して中を見てみると、ケーキの中から出てきたのは手のひらサイズの小さな箱。ケーキの中に入っても良いように、透明のビニールで包装されていた。