NOVEL

2番目の女 vol.5 〜既読にならない週末〜

 

「今さら後悔したって、過去の過ちを取り消すなんてできないのに」

過去に戻ることなんてできないのに、なぜ人は過去の過ちを後悔するのだろう。タイムマシンがあったら、過去に戻ってやり直すことができるのに。

空想の世界なら、何度だってリセットすることができる。だけど、現実がそんなうまくいくはずがない。

 


前回:2番目の女 vol.4 〜既読にならない週末〜

 

 

「初めまして、黒澤亮平です」

 

最後の婚活と覚悟を決めて向かったカフェで現れたのは、爽やかで綺麗な顔立ちをしたまさにイケメン。歳は私の4つ上の37歳。結婚していないのが不思議なくらい、格好良い人だった。

 

「初めまして、向井友梨です」

 

カフェのテーブルで向かい合わせになって、黒澤さんと言葉を交わす。格好良いだけではなく、とても気さくな人で、最初は緊張していた私も次第に打ち解けていった。

黒澤さんは20代で結婚をしていたが、相手の女性の不倫を機に離婚。それから人を信じられなくなり、10年以上独身を貫いてきたそうだ。

しかし、年齢はもうすぐ40歳。子供も欲しかった黒澤さんは、婚活することに決めたとのことだった。

 

話を聞いているだけで、誠実で真っ直ぐな素敵な人だということがわかった。

この人と結婚したら、幸せなんだろうな。

ふとそんな思いが胸をよぎる。これまでの婚活中は、ずっと翔太が頭の中から離れなかった。だけど、黒澤さんと話しているときは、黒澤さんのことだけを見ていられた。

 

 

黒澤さんと過ごす時間はあっという間で、気づけば外も暗くなっていた。黒澤さんも時計を見て立ち上がると、私の方に手を伸ばして声を掛ける。

 

「もう遅いし、今日は解散しますか」

「あの、また会ってくれますか?」

 

気づけば、口走っていた。まだお互い交際の意思を確認したわけでもない。本来なら、相談所を通すべきなのかもしれない。

だけど、私はここで終わらせるのは嫌だった。

 

私の発言に、黒澤さんは驚いた表情を見せる。これまで何人の女性とお会いしてきたかはわからないが、きっと初日でこんなことを言っているのは私が初めてだろう。だけど、すぐに素敵な笑顔を見せると「もちろん」と返してくれた。

 

「じゃあ、友梨さん。また連絡します」

 

別れ際、そう言って手を振ってくれた黒澤さん。私は、次にまた会える日が楽しみで仕方がなかった。

 

 

次回のデートは、初デートから1週間後。2人で映画を観に行くことになった。初めてのデートのとき以上に気合を入れて、準備をする。こんなにワクワクするのは、久しぶりの感覚だ。まるで、学生のときに戻ったみたい。

 待ち合わせ場所に着くと、黒澤さんは既に着いていた。そして私を見つけると手を振ってくれる。

 

「すみません、お待たせしました」

 「全然、今来たところですよ。早速行きましょうか」

 

別に手を繋いでいるわけでもないのに、黒澤さんの隣を歩くとドキドキする。目もうまく合わせられず、どれだけ自分が恋愛をしてこなかったかが身に染みてわかる。だけど、そんな私を黒澤さんはリードしてくれた。