不倫には覚悟が必要だ。それは「諦める」覚悟か「愛し続ける」覚悟。
不倫にハッピーエンドなんて待っていない。どっちに転んでも、バッドエンド。
「諦める」覚悟をすれば、愛する彼を失ってしまう。
「愛し続ける」覚悟をすれば、例え結ばれたとしても悪役としか見られない。
私が選ぶべきなのは、どちらの覚悟なのか。どちらにしても、ケジメをつけなければならない。
翔太の家に押しかけて夜ご飯をご馳走になって以来、定期的に遊びに行くようになった。
それと同時に、平日の翔太からの連絡も増えた。平日の夜、奥さんの帰りが遅くなる日は決まって私に連絡が来ていた。
翔太と2人きりのときは、一夜限りの恋人のように振る舞い、翔太の家族の前では仲が良い友達を演じる。
もう、私の心はズタボロだった。だけど、翔太を嫌いになることなんてできなかった。
このままではダメなことくらいわかっていた。悩む私の中で天使と悪魔が囁き合う。
「彼の家族のためにも身を引きなさい」と天使がいえば「奪ってしまえば良いじゃん」と悪魔がいう。
どちらのいうことが正しいかなんて、頭ではわかっていた。
私が翔太のことを想い続けても、もう私に入る隙がないことくらいわかりきっている。
もしも翔太が今の家族に不満があったら、私にだって奪えたかもしれない。
だけど、翔太は幸せなのだ。
それは家族と接しているときの笑顔を見れば一目瞭然。
さらに奥さんも子供も、翔太には勿体ないくらい良い子。
何で私を求めてくるかが不思議なくらいだ。
だから、私は心に決めた。私と翔太は、友達同士に戻る。
例え翔太から誘われたとしても、絶対に体を重ねない。
奥さんや海斗くんには私たちの関係が絶対バレないようにする。
私は、再会した日にもらったネックレスを捨てた。
今までこっそり撮った翔太の写真を消した。翔太とのメッセージや通話履歴は全部消した。
これが私なりのケジメ。もう、翔太との関係に終止符を打つのだ。
水曜日の18時過ぎ。いつものように翔太から連絡が来る。
いつものように私の中の悪魔が「行きなよ、どうせ奥さんにはバレないし」と囁きかける。
そんな私に天使が歯止めをかけた。「もうこの関係は止めるって決めたでしょ?」と。
「もう、2人きりで会うのは止めよう」