NOVEL

Second Woman vol.9~嫉妬が引き起こす絶望~

人事部長と加澄が婚約すると聞かされた純。

最初から自分は利用されていたのだと知りショックを受けるが、最後に一通だけメッセージを送る。加澄からその返事が来て…。

 


前回:Second Woman vol. 8~裏切りの延長線上~

はじめから読む:Second Woman  vol.1~その後ろ姿にただ惹かれた、それだけの筈だった~

 

まさか返事が来るとは思っていなかった。恐る恐る読み出す。

‘あなたは私にふられたように感じているのかもしれないけれど、あなたにとって私の存在は結局2番目だということがわかっていました。だって彼女とも付き合いを続けていたでしょう?別れてまで私と付き合っていく覚悟がないことに気づいたの。それは私にとって幸せなことではなかった。もう最後のメールになると思うし、私は異動になるから会わなくなると思う。純くんも彼女と幸せにね’

思いついた言葉をそのまま羅列したような文面だった。俺はもうそこに言い訳をすることはできなかった。

 

三村はあれから何も言ってこない。

「すぐには許せないよ。私だって悲しかったもの。でも純くんが加澄さんとよりを戻すことはもう無理でしょう。それなら私はいつまでも待ってる。加澄さんのことを忘れるまで待ってるから」

あの日、そんな風に言って付き合いを続けることになった。時々うちに来てそのまま朝仕事に行ったりするし、普通にデートもする。

俺の罪悪感はなかなか消えなかったが、加澄さんと会うことはすっかりなくなった。スマホから連絡先も消したし、何よりも彼女が異動になったのは関東の支社だったのだ。

物理的な距離があったのが幸いだった。人事部長も名古屋本社から関東エリアの人事部長として異動し、事実上栄転のようだった。

エリアが変われば噂も入って来なくなる。俺は気づいたら、加澄さんのことが風化しだしていた。新しい仕事を任されることが多くなり余裕がなかったせいもある。

 

 

そんな状態のまま半年が過ぎ、一年が過ぎていく。

変わらずに三村と付き合い続けていたある昼下がりだった。

昨晩から泊まりにきていた三村が帰ろうとした土曜日のことだ。用事があるからと帰る後姿を見た時、つい呟いてしまった。

「三村、結婚しようか」

 

ある晩夢を見ていた。

一年ほど前の休憩室の情景だ。加澄さんの後姿に見とれ、コーヒーを淹れたときのこと。

彼女が顔を見上げて俺の瞳をじっとみる。

なめらかな腕と首筋からウッディな香りを感じて甘い余韻に浸る。夢の中では俺もフラットホワイトを飲んでいた。

でも次の瞬間加澄さんは俺をすり抜けていなくなってしまう。部長と婚約したのだと言って。

そこで目が覚めたのだった。

 

「フラットホワイト、か」

 

彼女のことはだいぶ過去のものになっているが、心の中にコーヒーの苦みのように残っている。

ミルクフォームのまろやかさの中にある苦みだけを残していくなんてずるい。

それなら最初からブラックでいいじゃないか。何で今ごろ当時のことを思い出しだのだろう。

 

石田に結婚のことを伝えると自分のことのように喜んでくれた。そして一言だけ言う。

「三村をもう傷つけるなよ」

もちろん、と返事をしたのだった。

 

加澄さんのことは落ち込むことばかりではなかった。

付き合っている時、ただブランドのお店に連れていってくれただけだと思っていたのだが、ビジネスでは服装や靴など身につけているものと第一印象が大事だと教えてくれていた。

他社の上役からは身につけているものがハイエンドでセンスが良い、という言葉をもらったこともあったし、プレゼンでも最初の印象が良く手ごたえが出ることが多かった。

取引先の接待で食事をした後、ホテルのバーに連れて行ったときにはさりげなさを褒めてもらったこともある。

同年代の男性に比べてそういう方面に詳しいと上司からも頼られるようになった。

そんなことが続き、昇進することができたのは単純に嬉しかった。自惚れる訳ではないが、次の昇進にも少し手ごたえが出てきているところだった。