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「で?なんでいきなり月曜日から飲み会?」
少し訝(いぶか)しげに石田が言う。
話を合わせる必要があるのでテラスに呼び出したのだった。
俺は積極的に飲み会を開く方ではない。特に週の前半は家でゆっくり過ごしたいタイプだ。
長い付き合いの石田はさすがにそれをわかっていて、見事に指摘してきた。
隠し通せる自信もなかったので素直に今朝のことを言う。
もちろん加澄さんの名前は隠しているが、最近知り合った社外の女性という位置づけにした。
「へーやるねえ、三村。女の勘だろうね。お前も正直に言えばよかったのに」
「何となく隠しちゃったんだよ。今さら言えないだろ」
俺がフリーなことも普段会う女性がいないことも三村は知っている。
だからこそ怪しんだのかもしれない。
「まぁそれでも三村には言えないよな。あいつずっと片思いしてるし。お前も気づいてるんだろうけど」
「……」
やっぱりそうなのだ。
片思いというフレーズを出されると気恥ずかしいが、俺が気づかないふりをしている以上はそうなのだろう。
「隣同士で仲いいのにお前ら付き合ったりしないわけ?」
それは他の同僚にも言われることだった。
仲が良くお互いフリーで年齢もそこそこ。
世間は勝手にくっつけたがる。
「俺、三村のこと同僚としか思ってないし」
言葉にすると冷たくなってしまった。
ざぁっと風が吹き、テラスから見える木々が揺れる。
「三村も不憫だねえ。普通にかわいいのにお前なんか好きになったばかりに報われないなんて。夜の件は合わせてやるよ。定時で上がって3人で飲むか」
石田はやっぱりいい奴だ。
お礼を言おうとしたら石田が後ろに向かって声をかける。
「辻本さん!お疲れ様です」
加澄さんがコーヒーを片手にテラスに来ていた。
「お疲れさま」
俺もそこそこ挨拶する。
何となく目が合わせづらい。
「この間の案件なんですけどね、こっちは準備が整ったのであとは辻本さんのチームの方で…」
石田が仕事の話に入ってくれたのでさりげなくその場を去る。
加澄さんの横を通るとき、視線を感じた気がした。