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月曜日。
会社に行くのが複雑な気持ちだ。
彼女と会った時にどうすれば良いのだろう。ちょっと前まで、あれだけ休憩室で会えないかと思っていたのが昔のことのように感じる。
いい大人だ。あれで付き合うとかそういうことになるのではないとわかっている。
大体俺自身は彼女を好きなんだっけ?
惹かれているのは危うい感じがするからではないだろうか。
「おはよう、どうしたの?」
後ろからぽんっと背中をたたかれた。
左を見ると三村だった。
「…おはよう」
「なんか足取り重そうね。月曜だから?」
三村に加澄さんとのことを言うわけにはいかないので適当に返事をする。
話しながらフロアに向かう途中でスマホが鳴った。
メッセージアプリを開くと加澄さんの名前だった。
そうか、交換したんだっけ。
‘おはよう。部屋に忘れ物してたから今日の夜でも取りに来て’
忘れ物ってなんだろう?
思いつかなかったので質問を返したが、既読になるだけで返信は来なかった。
その様子を三村が見ていたのに気づかなかった。
「純くん、彼女できた?」
まずい。咄嗟に返信を打ってしまっていた。まさか画面の名前までは見えていないだろう。
「石田のやつから今日飲まないか誘われただけだよ」
機転を利かせて嘘をつく。
三村は気づいただろうか。
「へえ…その飲み会私も行っていい?」
「えっ?!」
「だって石田くんとでしょ。まだ月曜日だけど最近みんなで飲んでないし私も行きたいなぁって」
架空のことだとは言えなくなってしまう。
「俺だって行くとは言ってないだろ」
「えーいいじゃん。どうせ今重い仕事抱えてないでしょ?じゃあ石田くんにお願いしてくるね」
そう言って石田の席の方へ行こうとするので必死に止めた。
「どうせ後で会う用事あるから俺から言うわ」
嘘が嘘を呼んでしまう。
「そう?じゃあ今日は定時上がりね!」
三村は嬉しそうだった。