珠子はまだ気づいていないのか?
新郎新婦のお披露目は、新婚旅行までの間、びっしり詰まっている。
それを欠席する羽目になった珠子の事を、雄一郎の両親と祖父は『飾りにもなれなかった嫁』と言っていた。
それは、あながち反論は出来ない。
そして気づくべきだと思う。見舞われていない事実に。
その時、ノック音と同時にドアーが勢いよく開いた。
麻梨恵が大きな花束を無造作に持って、入ってくる。
「御機嫌よう。大丈夫?珠子さん。
明後日からハネムーンなのに…こんな状態で。余りにも心配でね。
挨拶回りを新郎一人でさせる、最低なお嫁さんの顔を拝みにね!」
麻梨恵独特の抑揚のない話し方が、珠子の心臓を深く抉(えぐ)る。
でも、反論する言葉は流石に出てこない。
まさに、その通りなのだ。
全部、自分が悪かった。医師にも検査入院を勧められたが、それは世間の恥だと思い、断り自宅療養で回復を待っている。
「でも、自業自得だとも思うわ。金持ちの家へ玉の輿成功とか…烏滸(おこ)がましいにも程がある。
分不相応な事をした罰よね?」
珠子は、麻梨恵の作られた人形のような顔を睨みつけた。
「あなたには関係のない事だと思いますけど」
麻梨恵はテカテカに輝く唇をまくり上げ…続けた。
「そうかなぁ?
新婚旅行…キャンセル出来ないし世間体もあるから、そこに居る愛子さんが行くらしいけど?ねぇ?海外ならどの女を連れていても、誰も解らないものね?」
部屋が急速冷凍されていくような悪寒を感じた。
愛子しか、ほとんど見舞いに来ない部屋。
愛子しか…?
珠子が、恐怖で愛子の手を握ろうとした瞬間…
愛子が手を引っ込めながら「お土産のブランド品なら任せて」と告げた。
これは、まさに、絶望の始まり…。
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