珠子、愛子、芽衣…三人の女たちが動き出す。食うか食われるか…!?
また一人、ハンターが姿を現す!そして…決戦への楔は打ち込まれた!
はじめから読む▶玉の輿 vol.1~珠子の章~
珠子は今まで『玉の輿』に乗ることだけを目標に、婚活パーティーには数多出席した。
年収がいい男は顔面がタイプではないし、趣味や性格が合わない。
アラサーに差し掛かり、夢は夢でしかないのかもしれないと諦めかけた頃、通い始めた『アンデルセン』での出会いはまさに奇跡といえた。
顔が良く性格も温和。
『カフェのマスター止まりでも、良いかなぁ…』
程度だった相手がもたらしてくれた、レッドカーペット。
此処から、珠子の安定した生活と夢が叶う。
そう信じてやまなかった。
資産家の婚礼は、形式上の式が終わっても続いていた。
お輿入れの日に愛する夫は不在であり、拍子抜けをした後に告げられたのは、お輿入れの行列で疲れ切った珠子への労りの言葉ではなかった。
持ち込んだ家具の搬入などは、西園寺家が取り仕切るので、今晩開かれるお披露目会の準備や、翌日からのご挨拶周りのハードスケジュールを言い渡された。
淡々と新婚旅行までの予定を直立したまま話し出した梶原という男は、勘に触るくらいの標準語で珠子を捲し立てた。
「あの、ちょっと…待ってください!」
「何か?スケジュールは印刷して後ほどお渡しいたします」
「そういう事ではなくて、雄一郎さんは…?」
「お披露目会の時間には戻られます。時間がないので、お支度をよろしくお願いいたします。」
全く珠子の意思を介さない姿勢を貫いて、梶原とお付きの数人は奥に去っていく。
傍に残っていたのは、一番に挨拶してきた、夏目芽衣という少女だけだった。
珠子は、縋(すが)るようなまなざしで、芽衣に視線を送るが、芽衣はしらけた表情のまま、「ご案内いたします。奥様のお部屋は裏口から家具の搬入をしておりますので、手狭ではございますが、来客室を用意しております」と告げて歩き出した。
洋館に立ち入るまでは、蝶よ花よと、もてはやされ、洋館の中に入ってしまえば珠子は歓迎されていない他人だと、暗に告げられた。
重い白無垢を支えてくれるお付きも居ない。
珠子は最後の力を振り絞るように汗を含んだ白無垢を持ち上げ、芽衣の後に付いて行く。
何度か西園寺家には挨拶に来たが、化粧室の場所くらいしか覚えていない。
芽衣の背中を見失ったら、このまま迷子になる。
『でも、きっと、お玉さんだって、庶民から大奥に入った時はもっと酷かったはず。
大丈夫!これから…これから!』
珠子は己を鼓舞するように、今一度白無垢を握りしめた。
珠子が案内された一室は客間というだけあって、高級ホテルのワンルームのようにベッドやソファーだけでなく、バスルームや猫足に装飾されている鏡台まであった。