NOVEL

玉の輿vol.3~芽衣の章~

珠子のお輿入れ当日。雄一郎に見初められた芽衣は使用人として西園寺家にいた。

純粋で幼い少女の歯車は、いつ壊れたのか…?

幸福の絶頂にいる珠子の前に、若き刺客、夏目芽衣が立ちはだかる!

 


前回▶玉の輿vol.2~愛子の章~

はじめから読む▶玉の輿 vol.1~珠子の章~

 

名古屋の繁華街、栄に訪れたのは17歳の時。

地下鉄の栄駅周辺を散策して、大人になった快感を味わったら帰るつもりでいたが、たまたま通りかかった洒落たカフェ『アンデルセン』に立ち寄った。それが夏目芽衣の人生を大きく変えることとなった。

 

遠いわけではないが母子家庭の一人娘ということもあり、地元一宮市から出ることはあまりなく、高校を卒業したら働こうと考えて栄周辺へ下見に訪れていのだ。

 

芽衣はそこで、オープンしたばかりの『アンデルセン』と出会う。

 

雄一郎が海外で買い付けた家具の置き場がないまま『アンデルセン』をオープンさせたが、稼ぐ気はなかったため、店内は西洋家具がただの飾りのように置いてあるだけの空間となっていた。

 

客のいない店に入ったものの、出るに出られず、恥ずかしさを感じていた芽衣だったが、オーナーである雄一郎の気さくなトークと大人の魅力の虜になった。

 

それからは、月に一度は『アンデルセン』へ通うようになっていった。

高校を卒業した後の進路に悩んでいると話した時、雄一郎は親身に耳を傾け「この店で働かないか?」と持ち掛けてきた。

給料も普通のアルバイト以上で、部屋も用意するという好条件を提示され、流石に芽衣も迷った。

 

なぜ、そこまで雄一郎が芽衣に優しくしてくれるのか?

18歳になったばかりの子供だが、その家庭環境もあり何か裏があるのでは?と疑いはした。

 

しかし、雄一郎が西園寺家の一人息子で地主であることを説明され、すぐに納得してしまった。

 

何よりも、雄一郎への恋心が盲目にさせたのだ。

 

大学進学は経済的に難しい。

母親を早く自由にしてやりたい気持ちで卒業と共に、西園寺家が所有しているマンションのワンルームに引っ越し『アンデルセン』で働いた。

 

そして、去年。

それなりに常連客もついてきて、可愛い芽衣を目当てに来る客も増えた頃。

雄一郎から、「西園寺家で、住み込みの使用人として働かないか?」と持ち掛けられる。

給料も倍額出すと言われ、何よりも雄一郎と同じ空間で生活できることが嬉しくて、芽衣はすぐに了解した。

 

芽衣は格式の違いすぎる雄一郎と自分がどうにかなれるなんて、微塵も思わない。

ただ、芽衣に雄一郎が西園寺家の使用人の話を持ち掛けた頃に、珠子が『アンデルセン』に通い始めたことが気がかりだった。