NOVEL

玉の輿 vol.2 ~愛子の章~

知らぬは玉の輿を掴んだ珠子のみ。西園寺家当主の隣に座すは、誰なのか?

珠子の親友愛子の巧みな目的が露わに…。そして…

 


前回▶玉の輿vol.1~珠子の章~

 

珠子と初めて出会ったとき、この女なら害にならず、邪魔にもならず、自分を輝かせて見せてくれる置物友人にちょうどいいと愛子は思った。

身の丈に合わないブランド物が好きで、常に持っているものは年季を感じる物ばかり。

 

物を大切にできる人は、異性の事も大切にする。

 

それならば、愛子自身はまさに珠子と正反対だと思っていた。

常に最新モデルが出れば買い替える。

愛子は飽きたら質屋に入れて、元資金にしてでも常に自分をそれなりの女に見せていた。

 

名古屋の中心部であるビジネス街。

愛子は丸の内に事務所を構えるブライダル専門のスタイリスト事務所で働いているため、何不自由することもない。

ブライダルの相談に訪れるカップルを相手にしながら、『今が幸せの絶頂よ』と口許を歪ませる日々に不満もない。

 

愛子が育った家庭は崩壊していて、母親の口癖は『結婚なんてしなければ良かった!』だった。

ならば、別れたらいいものを…

世間体が悪いという理由だけで、いつまでも生産性のない関係を続けている両親が愚かでならなかった。

 

結婚に夢を見ている女たちが堕ちていく先は見えている。

愛子の友人たちも、若いうちに結婚して、子供が出来てすぐに別れている事が多く、愛子自身に結婚願望はなかった。

 

ただ、一つ。

子供を授かるなら、金持ちの男との子供が良いという確信だけはあった。

 

遊ぶなら、若い可愛い男。

でも、子供が欲しい願望は捨てきれない。

 

愛子の目標は、世間的にずれている事は理解していた。

 

それでも、子供は可愛い。

自分の子供には、不自由はさせたくはない。

愛子が思う男性への欲求と、愛子が理想に思う子供への執着が合致することはなかった。

 

愛子はそんな自分の相反する欲求を、珠子を含め誰にも話したことはない。

 

そして、シングルマザーの友人が、お金に困っている現状を聞いても心を痛める事はなかった。

養育費を払う甲斐性もない遺伝子で、子供を作った自分が悪いと卑下する気持ちしか沸き上がらない。

 

その点では、珠子は純粋無垢な『お子ちゃま』に見えて、2つ年上の珠子に対して情のようなものを感じていた。

「玉の輿の語源を知ってる?」

さも、自分はなんでも知っているかのように語る珠子の幼い部分が、愛子には好感だった。