雄一郎と珠子の交際は、半年くらい続いた。
特にセレブを感じる事もなく、この人と付き合っていて自分の夢は叶うのか?
と漠然と不安に思った頃に、雄一郎は珠子に1Ctのダイヤがついた指輪を差し出した。
そして『結婚しよう』と告げてきた。
最初はそれが本物なのか?
疑いたくもなった。
しかし、その輝きと重みで偽物ではない事はすぐに分かった。
それからが、怒涛のようだった。
珠子の家庭は名古屋市でも郊外の緑区だ。一軒家ではあるが、ごく平凡に育ってきた一般家庭である。
両親に結婚式の事を聞いても、簡易結納しかしていないというので、名古屋専門の業者に見積もり相談して、総額約300万円となったのだ。
その後の結婚式を考えたら、根を上げそうではあったが、結婚式は雄一郎が全て準備してくれた。
というよりは、西園寺家が全て執り行ったのだ。
しかし、手ぶらでお嫁に行くわけにはいかない。
それもこれも、結婚してしまえば済む話だ。
お金だけではなく、珠子はなにより雄一郎の事が好きだったのだ。
「ラブラブだね。」
愛子が最後にチークの色味を見ながらそう告げた。
「まぁね…。結果として、玉の輿に乗れたみたいに見えるかもしれないけど、雄一郎さんとは恋愛結婚だからね。」
珠子は誇らしく思っていた。
愛されて、選ばれて、平民から将軍の正妻になった自分は、尊敬していた「お玉」を超える存在になれたのだから。
愛子は口の端を緩めた。
「へぇ~それは、それは…羨ましい事で。はい!!美人な新婦の出来上がり。」
珠子が4着目に着ているドレスは薄いパープルで、背中がぱっくりと空いていた。
意気揚々と、スタッフに先導されながら歩いていく珠子の背中を愛子は見送る。
「行ってらっしゃい…お飾りにするにしても、もう少し…背中の手入れさせるべきよ。エステに通ってもあのレベルってことだけどね。」
愛子はポケットからスマホを取り出して、珠子の後姿を隠し撮りした。
雄一郎と愛子は、珠子と愛子が出会う前に大型パーティーで知り合い、その日の内に一夜をともにした関係だった。
その時も、雄一郎は自分の素性は明かさなかった。
だが、しつこく身体の相性がいいからと連絡は来ていた。
顔と身体はタイプ。
でも、その時には愛子の家に、恋人と名乗る若いツバメが住み着いていた。
「ツバメも巣立ったし…私もそろそろ、安住の住処が欲しいなぁ…」
愛子の胸元には、0.3Ctのダイヤのネックレスが輝いた。
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~愛子の章~知らぬは玉の輿を掴んだ珠子のみ。西園寺家当主の隣に座すは、誰なのか?珠子の親友愛子の巧みな目的が露わに…。