「昔ちょっと……いろいろあって。そのせいで仕事で上手くいかないことが最近あったから、昨日は飲み過ぎちゃって……」
きっと、 こうやって打ち明けてくれるのは、僕がそのための「被害者」になったからなんだろう。
怖い存在なはずの、よく知らない異性の家を訪ねるなんて――強さがなければできないことだ。
(すごいな……)
だいたい、こんなデリケートな問題をよく知りもしない他者に打ち明けるなんて。それこそ、勇気のあることだ。
「本当に、私の問題のせいで御前崎さんには……ご迷惑おかけいたしました」
そう、締めくくろうとする彼女に。
気がつけば、「あのっ」と声をかけていた。
「はい……?」
「あの――えっと」
笑ってごまかすも、「えっと」の後の言葉が、思いつかない。
どうして僕は、声なんてかけたんだろう。
彼女が、僕と同じ境遇だと知ったから? 同じ悩みを抱えているって分かったから――「僕も女性恐怖症で」って、打ち明けるため? そんなことに、一体どんな意味がある。
同じ傷を持つ者同士、舐め合うことすら僕らはできない。だって、お互いが恐怖の対象だから。
僕は、ただ――。
――彼女ができて、女の良いところをいっぱい知れば、女全体に対する恐怖心とか嫌悪感も和らぐんじゃないかと思ってさ。
不意に。思い出したのは、葉山の言葉だった。
僕の口が、理性を介さずに動き出す。
「あの――僕と、出かけませんか?」
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隣人の槙と出かけることになった御前崎薫は自分から誘っておきながら気持ちが鬱々とっしていた。