NOVEL

「Lady. Bloody Mary」~女の嫉妬~ Vol.3

 

聖奈はどこか誇らしげな気持ちだった。あらかじめ予約していた窓から見えるイルミネーションが美しく見えるイタリアン「ラ・エテルニータ」でディナー、ワインを坂間と傾ける。

食事が終わると談笑のついでに、やっと坂間のLINEも知ることができた。

その後、あっさりと解散したが...まだまだこれから。

密かに買っていた、Paul Smithのネクタイピンをプレゼントで坂間に手渡した。

憧れの人へ、素敵なクリスマスプレゼント...。

もちろん、見返りは願っているがまず自分をより「認知」させるということに

聖奈は満足していた。

誰も知らない”繋がり”を作れたことに安心していたのだ。

 

 

さて、聖奈をタクシーで送った坂間のスマホには、とある着信が届いていた。

LINEに光る未読の数字

”坂間くん、明日は楽しみにしています。でも私でいいの?”

送り主は小竹紗夜である。以前から、ぼっちクリスマスだとランチの時に話していて、それとなく坂間とディナーでもという話をがっちりと固めていたのだった。

”もちろんです、俺、今はフリーなんで”

”そうだったよね、でも貴方みたいな素敵な人を振るなんてもったいない彼女だね”

”もう過ぎた話です。名古屋は素敵な街で、仕事もいい感じなのでやりがいありますよ”

同世代で、坂間が長年付き合っていた彼女と最近別れて、名古屋へやってきたことまで知っていた。紗夜の武器はその聞き上手と”見た目”の穏やかさである。

翌日、終業時間に笑顔で何やらチケットらしきものを持って駆け寄ってきたリノ

「遼くん、今日さ、劇団四季のチケットが一枚キャンセルになっちゃって..よかったら一緒にいかなーい?お願いっ!」

甘え気味に身体をゆするリノ、しかし坂間は苦笑いしながら

「三宮さん、申し訳ないです。今日は先約があって。申し訳ないです、またこの埋め合わせはしますから」

と鞄を持つとオフィスから退室していった。

それを帰り支度をしながら、ゆっくりとエルメスのショールを首に巻きながら紗夜は笑いを堪えるのに必死だった。

 

”年増のババアがなんて情けないんだろう、自分は間違ってもああはなりたくないなぁ...”

 

予約したレストランで坂間と待ち合わせ、美味しい和食フレンチと日本酒でお腹と心を満たす。

眩しげなクリスマスツリーの影から見つめる女性がひとり、それは坂間に振られチケットも後輩に定価で譲り、帰路についていたリノであった。

彼女のプライドは音を立てて崩れていた。普段、地味子である小竹は眼鏡を取り、髪の毛も下ろしまるで別人のように、いい女として坂間と談笑している。

冷え込んだ空からはゆっくりと粉雪が降り注ぐ、氷点下の心はまるでリノの心のようで。

自分よりずっと後輩が、暖かな窓の奥で坂間と共にクリスマスイブを過ごしている。

今まで欲しいものは手中にしたり誰もがリノに付いてきたのに、それを嘲笑うかのように

出し抜かれたようで思わず、イヴ・サンローランのルージュを塗り直した唇を強く...強く

噛み締めた。

紗夜は食事後、もし可能なら自宅か彼の家で飲み直しあわよくばワンナイトから繋げようかと考えていたが、彼は仕事の連絡が入ったからと早々と席を立った。

紗夜の手元には、シャネルの流行りのルージュが贈られていた。社内でもこれをつけて私は彼と”繋がり”があるのだと、思い知らせるのだ。

 

 

「三宮さんっ!」

粉雪が舞う中、仕事の連絡だと聞いた坂間は急いで会社へ戻ってきた。

そこにはパソコンの前で困惑しているリノの姿が見えた

「退社していたのにごめんね、今日提出する文章がこれでよいか自信なくて」

「結局、四季のチケット大丈夫でしたか?」

「うん、後輩たちに行ってもらったの、無理言ってごめんね」

しゅんとした顔でリノが答える、そこには普段強気な彼女の姿はどこにもない。

思わず

「大丈夫ですよ」

とリノの長い巻き髪をポンっと撫でるように大きな手のひらを乗せる坂間。

「ありがとう、ごめんね。本当は不器用なんだ...」

坂間は少しデスクを代わり、文章を整えると保存し先方へ送った。

12月25日、時刻は11時34分。

クリスマスも、もう終わる。

「三宮さん、終わりましたよ」

「...遼くん、お酒飲んだ?」

先程まで日本酒を飲んでいて、少し酔っているのをリノは知っている。

だからこそ彼を呼び寄せたのだ。

思わずリノを見上げると、彼女は少し冷たい表情で彼を見下ろしている。

 

”あの子たちが、貴方を独占するなんて私は絶対に許せないのよ”

 

そのまますっと坂間の形の良い唇に、リノのルージュが押し付けられる。

あまり優しくないキス、一瞬、驚きで坂間は目を見開くがリノの視線にそっと瞳を閉じた。

そのまま角度を何度も変え、キスを交わす2人。

 

 

社内メールが送信されたという点滅画面が画面上で光っていた。

 

 

粉雪舞い散る名古屋のクリスマス。

ある者は暖かな家で保湿マスクをしながらハンカチを見つめている。

ある者は呼びよせたシティホテルで、とある男と身体を激しく重ね合わせていた。

そしてある者は、会社で背徳的なキスを交わしている。

 

 ”平和のきみなる み子をむかえ

 すくいの主とぞ ほめたたえよ

 ほめたたえよ ほめ、ほめたたえよ”

 

真っ赤なブラッディマリー、その真っ赤なカクテルの意味は

「私の心は燃えている」

 

そして...

「断固として、勝つ」

である。

 

 アーメン

 

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 年初めに集いし3人の着物美人。狙うは美形ハイスペ男子ただ一人。クリスマスの甘い記憶を胸に仕事と彼を虎視眈々と追いかける。