NOVEL

勝ち組妻 Vol.3 ~タワマンのクリスマスパーティー~

 

「あっ、すみません。」

京子のひとつ前に並んでいた人の左手と京子の右手がぶつかる。

「どうぞ。」

「すみません、ありがとうございます。」

ぺこりと笑顔で小さく頭を下げ、トングを手に取った女性は、一言で形容するなら清楚。

どこか落ち着いた様子で、色白の女性だった。

 

 

 

 


ある程度皿が埋まり、満足した京子は、適当な席に着いた。

生ハムサラダを食べていると、隣から椅子が床を軽くける音がする。

見ると、先ほどの清楚な女性だった。

改めて全身をとらえると、白い肌にネイビーのロングワンピースが似合っている。

繊細なレースのデザインが、知的な雰囲気をまとわせている。

しばらくお互いに黙々と料理を味わっていたが、

―今のチャンスを逃したら、今日は誰とも話さずに終わってしまうかもしれない。

と思った京子は、思い切って話しかけてみることにした。

ローストビーフを口に運ぶ姿がきれいで、絵になりそうだ。

「きれいな手ですね。」

言って、しまったと思った。

―気持ち悪いと思われてしまったかも。

知らない人からいきなり発せられた第一声が、自分の体についてのことなら、うれしいと思う人もいるかもしれない。

だが、いやだと思う、不審に思う人が大半だろう。

「ごめんなさい。あまりにも食べ方がきれいだったから、つい口を出てしまって。」

「いえいえ、ありがとうございます。」

京子の心配には及ばず、女性は笑った。

 

それに安心して、京子は続けた。

「料理、おいしいですね。」

「そうですね。」

「どれも、ほどよい温度で…。」

「本当ですね。」

反応が悪いことを察し、京子はしばらく黙る。

―もしかしたら、そっとしておいてほしいのかもしれない。

それとも、ただ大人しいだけかしら。

迷いも生じたが、今日の京子は引かない。

もう一度嫌がられるようだったら、話すのをやめよう。

 

「こういった会に参加するのは初めてでびっくりしたのですが、思ったよりも人が多いですね。家族連れとか…。」

微笑んで聞いていた女性だったが、そこまで言って瞳が一瞬揺れたのを、京子は見逃さなかった。

触れてはいけない単語があったのだろうか。

「多いですよね。」

彼女の動揺が気になり、言葉がとぎれとぎれになってしまった。

「わたしも、久しぶりにこんなに人が集まる場に出て、刺激をもらいました。」

女性が話す。

 

「普段あまり人とはお会いにならないんですね。」

「はい。主人が、海外出張が多いので…。一人さみしく過ごしています。」

本当にさみしそうに言うので、京子は胸が苦しくなった。

会ったばかりで口にするのも迷う。

それでも、伝えておかなければ後悔する気がした。

「そうなんですね…。どうしてもさみしいときは、わたしでよければ話し相手になりますよ。…もちろんどうしてもというわけではないし、あなたの好きにしてね。」

不意を突かれて驚きながらも、ありがとうございます、と言った彼女の気持ちは、おそらく京子をいぶかしむものだろう。

 

少しでも不安を取り除けるように、京子は今の自分の状況を説明する。

いつでも話は聞くし、要望があれば占いもすることができる。

怪しいおばちゃんだと思うだろうけど、気が向けば連絡して、と連絡先を渡した。

はたから見れば、明らかに勧誘と間違えられるだろう。

だが、どう思われたとしても、京子は真剣だった。

 

 

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