「クリスマスパーティーか。いいんじゃない。」
夕食に作った鹿ロースの赤ワイン煮込みを上品に口に運びながら、幸雄が答える。
ソースを口の端にわずかも残さない彼に、向かいに座っていた京子は、相変わらずきれいに食べるな、と釘付けになる。
「今までに1度も参加したことがなかったし、この機会にみなさんと顔を合わせてみたいの。」
「すぐにはお相手がでてくるとは限らないってことも、頭にいれておかないとね。」
「そうね。今回は遅いご挨拶だと思って参加することにするわ。あなたは参加できそう?」
「うーん、日曜日、だっけ。仕事の進み具合かなあ…。もしかしたら京子に丸なげすることになるかもしれないけど、そのときはごめんね。」
幸雄の仕事の忙しさは、理解しているつもりだ。
だから、寂しく思うことはあっても引き止めたり、文句を言ったりすることはしない。
仕事中心のわずかな時間の中でも、こうして幸雄と晩ご飯を共にできることが、京子はうれしかった。
恐らくクリスマスパーティーはひとりで参加しなければならないだろう。
「わかってる。無理しないで。」
1982年もののシャトー・シュヴァル・ブランの赤ワインを一口含む。
芳醇な果実味が広がる。
「一緒に来て欲しい」という小さな願いとともに、ゆっくりと喉の奥に流し込んだ。
クリスマスパーティーが開催されるのは、いよいよ今週の日曜日だ。
手伝いをしたほうがいいものか、何の呼びかけもないし、全てお任せしていいのだろうかと日々悩んでいる間に、そのときがきてしまった。
掲示板にも手伝いについては何も書かれていなかったし、いいだろうと迷いを吹き飛ばす。
朝軽く幸雄に相談すると、
「やってくれているだろう。」
ということだった。
その流れで、日曜日は仕事になったと告げられる。
少し表情が曇ってしまったのだろうか、幸雄がごめんね、と謝る。
「京子なら大丈夫だよ。」
と明るく言う彼に、心配の色はうかがえなかった。
服はどうしようか、とクローゼットを漁る。
―きっとみなさん、おしゃれをしてくるに違いないし…。
でも、子供から高齢者まで参加するとなったらそこまで華美な服は避けるべきかもしれない。
しばらく悩んでいたが、最終的に2着に絞り込んだ。
マメクロゴウチのカーブプリーツドレスとボールジィのウエストギャザーワンピース。
ネイビーと明るいオレンジに近い、シャーベットという2色だ。
大人の女性、といえばプリーツドレスの方がイメージにぴったりだろうが、今回はなるべく親しみやすくしたい。
ボールジィの方はシンプルだったが、明るい淡い色で、目立つ。
柔らかさも演出できそうだ。
物足りない部分は、装飾品をつけることにしよう。
姿見にワンピースをあて、満足げに微笑む。
「うん。ばっちり。」
服の色に触発されてなのか、明るい気持ちになるようだった。
京子初のタワマンクリスマスパーティー! 豪華な会と参加者たちの闇とは?