NOVEL

彼女がいても関係ない vol.1 ~新しい風が吹く前に~

 

社内恋愛にいい顔をしないアラサーお局社員。だが、アメリカから超エリート社員が

戻ってくるとの噂が広がり…。

 


 

♦序章 新しい風が吹く前に

 

 

ジリリリリ

社内に12時を知らせるベルが鳴る。

誰もがデスク周りを片付け、昼休憩を取ろうと席を離れていく。

ここは株式会社スター・エレクトロニクス。

社員200名を抱える上場企業。

半導体の開発に成功し、基盤も盤石。

名古屋本社以外にも東京・大阪、さらには海外にも支社を構えている。

 

本社は名古屋の丸の内のメインストリートに面した自社ビル。まだ新しい社屋は流行りの全面ガラス張りが特徴的な建造物だ。

 

 

 

 

「ね、今度の営業部長、アメリカ帰りのエリートですって」

「そうなの?独身?」

「人事の子の話だと、そうらしいわ。歳は33歳」

7階の社員食堂の一角。

いつものテーブルに営業1課の女性たちが陣取っている。

「どんな人か楽しみですね!」

媚びる様に最年長らしい女子社員に視線を向けたのは川崎乃亜。

今年大学卒業したばかりの新入社員。まだまだ仕事よりアフター5に忙しい23歳だ。

 

声を掛けられたのは入社10年目を迎えたばかりの山村礼子だった。

少し切れ長の瞳、まっすぐなストレートボブに黒縁メガネが堅苦しい印象。

短大卒業後、正社員として入社。今年の誕生日で30歳になる。

 

 

 

 

向かい側の席に座って、黙って話を聞いているのは2年後輩の野中ひとみ。

28歳。同じ部署だからランチタイムは同席しているけれど、実のところ居心地は良いわけではなさそうだ。

基本、できるだけ波風を立てたくないのが信条らしい。

 

「でも恋人くらいは居るかも知れませんね、そんな人なら」

含みのある発言をしたのは最後の一人、宮本百合子。

年齢は26歳。帰国子女らしく英語が得意だと吹聴している。

いつだって礼子を立てている様でいて、周囲の女子を少し見下したところがある。

 

「そうね、どんな人か楽しみね」

礼子が左手でメガネの縁を軽く持ち上げながらそう答える。

 

「ひとみさんは関係ないわよね、ちゃんと彼氏がいらっしゃるから」

左隣の百合子が頬づえを付きながら、そう話しかけてくる。

無邪気な表情の裏に微かな悪意がこもっていることに気付きつつ、ひとみは頷く。

 

「そうね。でもどんな方なのかしら」

実のところ興味はないけれど、こう言う場では本音を漏らし過ぎてはいけない。

少しの嘘と相手が欲しがる情報を上手く織り混ぜて言葉を繋げるのが正解だ。

人は誰でも誰かの不幸が大好物だということをひとみはこれまでの経験から、良く知っている。

 

そもそも付き合い始めたばかりの城島とのことが周囲に知られたのは百合子のせいだ。隠し通したいわけではなかったが、公にするつもりもなかった。それがたまたま休日に足を伸ばした京都でばったり出くわしたのがまずかった。